やってやる!

 その言葉と共に、隣の2人も小さく頷いた。


 へ? へ? わた……し?

 い、いやいや!! それは!


「あらら、さすが腐っても勇者やねえ。リムはんの腕を見抜きよったわ」


「そのほうが筋通ってるだろ? 君が勝ったら俺たちは負けを認める。何でも言う事聞くよ。でも君が負けたら……」


 そう言ってスキンヘッドさんは私をじろじろ見た。

 な、なに……


「さっきの二人ほどじゃないけど、君もよく見ると案外……可愛い。うん、君が負けたら赤い服の子が言ってた条件を君がやる、ってのはどうかな?」


「はああ!?」


 そ、それって私がビキニアーマー着るって事!?

 お姫様抱っこされるって事!?

 ヤダヤダ、絶対ヤダ!


 私が数歩後ずさりすると、コルバーニさんが私の前に出て言った。


「貴様……それは本気で言ってるのか? 私との勝負に怖気ついただけでなく、リムちゃんを引き出すとはな。いい度胸だ。この場で肉片にしてやろうか」


「てめえ、やっぱり猫かぶってたんじゃねえか! 何が『お兄ちゃん♪』だ! 別に間違ってないだろうが、リーダーどうしで決着なんだから。そうだろ!」


 スキンヘッドさんが周囲に同意を求めると、周囲の人たちは微妙な反応をしていた。

 そ、そうだよね!

 流石、みんな大人だ!


「あと、約束を反故にされないために勝負がついたらその場で条件を実行、はどうだ。つまりリム……ちゃんが負けたらこの場で……あ、もちろん更衣室でな。ビキニアーマーに着替えてもらって、この場でお姫様抱っこして、お、お……俺と、ここからデートに出かける!」


 ……へ?

 って言うか、なんであなたとデート!? いや、あなたたち誰ともヤダけど。

 この場でビキニアーマー!? お姫様抱っこ!?

 鳥肌立つ情報多すぎ!!

 

 そして……あったま来る事に、その途端周囲の男どもがスキンヘッドさんを応援し始めた。

 だから男って……変態!!

 ただ、流石と言うべきか勇者さんたちは少ないようで、ほとんどが手続きに来た市民の人たちだ。

 と、言ってもやなものはヤダけど!


「だ、大丈夫だ! 俺はこう見えてデートの経験は1回だけある。8歳の頃に近所の7歳の子とだ。だから安心しろ。ちゃんと内容は覚えてるからエスコートできる。そうだ! 1分以内で勝ったら『リム、アレクお兄ちゃんの事すっごく大好きだよ』って最初に……可愛く言ってくれ」


 なんなの、みんな!

 おかしな人ばっかじゃん!


「リムちゃん、聞く必要は無いからね。クローディアと路銀稼ぎは別の手段を考えよう。顔は覚えたから、あいつら後日血祭りに上げてやる」


 コルバーニさんが憮然とした表情で言うと、私の手を引いて歩き出そうとしたけど……


「でかい事言っといて、リーダー弱いのかよ!」


「トップが弱いなら、他の奴らも苦労するな」


 うう、耳に痛い。

 ごめんなさい。これから精進しますから。


「って言うか、さっきのガキもまぐれなんじゃね。色仕掛けで勝たせてもらったとか」


 え……

 

「リムちゃん。無視して。雑音は無視」


 そ、そうだ……けど……


「赤い服のガキも実は弱いんじゃね?」


「だよね。だから逃げてんだよ」


「勇気も腕も無いお子ちゃまたちは、おうち帰ってパパやママに泣きつくんだな。いじめられたよ~って」


「弱いリーダーのお守りが色仕掛けしか能の無い子供かよ。笑えるんだけど」


 それを聞いた途端。

 私の中で何かが……プツンと……切れた。


「……るさい」


「え? リムちゃん……」


 私は気がつくと、コルバーニさんの手を払いのけて、野次を飛ばしている男たちの前に進んでいた。

 そして、大きく息を吸い込む。


「うるさ~い!!」


 場の空気が一気に数度ほど下がった気がした。

 魔法のように静まり返ってる。

 けど、後には引けない……ううん、引きたくない!

 私は確かに弱っちい。 

 それは事実だから気にならない。

 でも、コルバーニさんやアンナさん。そしてみんなを馬鹿にするのは……許せない!


「コルバーニさんとアンナさん……それにみんなを馬鹿にするな! みんな、私なんかよりずっと……ずっと……凄いんだ! あんたたちよりずっと凄いんだからね!」


「は……はあ? なにキレてんの?」


「謝って! すぐに! あの人たちはまぐれなんかじゃない。色仕掛けの人なんかじゃない。勇気も……知恵も……凄いんだよ! 誰よりも凄いの!」


 ああ……もう止まらない。

 言葉も涙も。


「……だったら、余計に勝負しようか。リムのお嬢ちゃん。お仲間の正しさを証明するためにも」


 スキンヘッドさんの声に私は振り返る。

 頭に来すぎて涙が止まらない。

 そして、気がつくと口から勝手に言葉が出ていた。


「分かった。やってやる!」

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