私の友達(4)
目の前に映っている物が現実とは思えなかった。
「おじいちゃん……本当に、おじいちゃんなの?」
おじいちゃんは私を見ると、あの図書館の時と変わらない優しい笑みで言った。
「りむ、久しぶりだね。会いたかった」
「私も……ずっと」
私はおじいちゃんに向かって駈け出して……胸に飛び込んだ。
「おじいちゃん! 会いたかった……ずっと」
「りむ。私も会いたかったよ……ずっと探してた」
私はおじいちゃんの胸の中でずっと泣き続けた。
私の旅。長かった旅。それがやっと……
「りむ、強くなったね。本当に強くなった。ビックリするくらいの力も持ったみたいだ。本当に驚いた」
「ううん、そんな事……ない。だってみんなのお陰だもん」
「そうか……そうなのか」
おじいちゃんはそうつぶやくと私を見て言った。
「りむ、君が旅をしているのは私を見つけるためだけではないだろう? 何のためだい?」
「私……万物の石を破壊したいの。鉱石病。あのせいで沢山の人が苦しんでる。だから……壊したい! そのためにはおじいちゃんやコルバーニさんの力が必要なの! だから力を貸して……」
おじいちゃんは私を抱きしめる腕にグッと力を入れると小さくつぶやいた。
「万物の石……それこそが全ての元凶。君もそう思ってるのかい?」
「……うん。最初はおじいちゃんを見つけるのが目的だった。でも、今は……石も地上から消し去りたい。でも、私じゃ無理だから……」
「いいや、君にしか出来ないんだよ。万物の石の破壊は」
「そ、そんな事……だっておじいちゃんとコルバーニさんが昔、石を破壊しようと……」
「あの時は……そうだ。今は……違う」
「……どういう事?」
「りむ。君は今から私と共に来て欲しい。私は迎えに来たんだよ。りむを」
「も、もちろんおじいちゃんと一緒だよ! これからはずっと。でも、もう1人で動く必要は無い。私ね、とっても頼れる友達が一杯出来たんだよ。だから……その人たちと」
でも、おじいちゃんは何故か厳しい表情で首を横に振った。
「それはダメだ。りむ。おじいちゃんと一緒に来るんだ」
「え? なんで? なんで他のみんなはダメなの?」
「それは……りむ、私しか万物の石を真の意味でコントロール出来ないからだ。だから……」
次の瞬間、私の背中にまるで焼けた棒を押しつけられたような激痛を感じた。
あ……熱い!
驚いて背中の方を見ると、おじいちゃんが何かを振り上げているように見えた。
「おじい……ちゃん?」
「りむ、すまない。君を無理にでも連れていく」
「ヤマモトさん!」
次の瞬間、アンナさんがおじいちゃんに向かって走り込んだが……その動きは突然現れた人によって防がれた。
「アンナ……ユーリの邪魔をするな」
おじいちゃんに向かっていったアンナさんの攻撃を防いだのは、コルバーニさんだった。
「……先生……なぜ」
「コル……バーニさん」
コルバーニさんはおじいちゃんと同じく、泣きそうな顔で私を見た。
「リムちゃん……楽しかったよ。今までずっと。でもね、私は……償わないといけない。それが……私の生きる意味」
「……何のこと? 訳分かんない……なんでそれと……私が」
コルバーニさんとおじいちゃんは一緒に剣を構えた。
……私に向かって。
「ユーリ、さっきみたいな痛みを与えるのは無しね。苦しまずに……一瞬で」
「すまない、アリサ。もう大丈夫だ」
これ……夢……だよね。
「なん……で」
呆然とする私の前にアンナさんが立った。
「何が起こってるのか分からない。でも……ヤマモトさんに危害を加えるなら……みんな敵だ」
「邪魔をしないで欲しい。これは……私とアリサの償いなんだ」
「……何……言ってるの! 訳分からないよ。なんでおじいちゃんとコルバーニ……が私を? 償いと私と何の関係があるの?」
その言葉を言った直後。
私は背筋に寒気が走るのを感じた。
よく分からないけど、自分が言っては行けない言葉を言ってしまった。
そんな気がした。
「りむ。万物の石を取り込んだ私とアリサは石の力を無効化できる。ライムは石をコントロールし、引き出せる。それは……なぜだと思う?」
「なぜ……って? なんで?」
「ユーリ! それは言わなくても……」
「アリサ。ダメだ。これは正義のため。世界のためなんだ……分かるか?」
コルバーニさんは顔面蒼白になって小さく首を横に振っていた。
なに? 何を……言おうとしてるの?
私は思わず隣のアンナさんに近づいた。
怖くて1人で立っていられない……なんで、コルバーニさんやおじいちゃんはそばに……いてくれないの? ねえ?
「りむ。万物の石の力をコントロールし引き出せるのは……同じ万物の石。ライムは石の一部から変異した物」
「……やめて……やだよ……」
「ユーリとやら……黙れ!」
アンナさんが斬りかかろうとすると、おじいちゃんはそれを軽々とかわし、私を見て言った。
「りむ。万物の石の心臓部分は探しても決して見つからない。手足と言える末端部は私が管理しているが、その程度。なぜなら……君が万物の石の心臓そのものだからだ」
バンブツノイシ……私?
私はどんな表情をしていたんだろう……
よく分からない。
おじいちゃん、なんで私をからかってるの?
「私とアリサ、そしてライムでその力を削ぎ、いったんは封印した万物の石。だがその核となる存在……生命体とでも言おうか。その力や存在はそのままにするには危険すぎた。だから、コントロールする必要があったんだ。だから私はそのために戦いの最中、命を落とした赤ん坊を使った。その死んだ赤ちゃんの中に石を入れ込んだ。それが……君だ」
嘘……嘘……嘘だ。
「アリサ。ライムとクロノ・ノワール……だったか? 奴らの始末は?」
「出来てる……はず」
「はず? 確実に、と言ったはずだ」
「……ごめんなさい」
「あの2人がいると、りむを説得できない。自らの存在の邪悪さに気付いてもらわないと、世界を救えない。分かるな」
「でも……ユーリ。本当に……こうしないと、救えないの? 償えないの?」
「私はそういった。私たちの旅はずっとそうしてきた。私を信じるんだ、アリサ」
「やだ……やだよ……なんで、そんな事言うの……」
表情を歪めながら頷くコルバーニさんを見て、私は泣きながら言った。
もう……信じられない……誰も、自分も……
その時。
隣のアンナさんの声が聞こえた。
「先生。この後に及んでもユーリ、ユーリ、ですか?」
「アンナ……」
「私はあなたたちが何を話してるのか分からないし、興味も無い。世界を救う? 償い? そんなのは2人で勝手にやってなさい。世界なんてどうでもいい! でも……ハッキリ言えることがある」
アンナさんはそう言うと、見たことが無いくらいの怒りに満ちた表情で言った。
「ユーリとやら……家族を泣かせる男がどこに居るの? アリサ・コルバーニ! 惚れた女を……泣かせるな!」
叫びにも似た大声を上げると、アンナさんはコルバーニさんに斬りかかった。
それはあまりにも早く、正確で、コルバーニさんはただ受けるだけだった。
「コルバーニ! あなたならヤマモトさんを任せられると……きっと幸せにしてくれると……なのに……なぜ!」
その剣の動きにコルバーニさんは後ろに飛び退いた。
「アリサ・コルバーニ! あなたは誰なの! 選ばれし英雄? そこの年寄りと同じ償い損ねた負け犬? 剣術道場の先生? それとも、私たちの友達? それとも……」
そう言うとアンナさんは涙を流しながら震える声で言った。
「……ヤマモトさんの愛した人?」
「アリサ、この少女を切れ」
おじいちゃん……なんで、そんな……怖いよ……
「もう1度だけ聞きます。あなたは誰なんです? 私に……もう一度『先生』と呼ばせてください。……ヤマモトさんと作る幸せを……見届けさせてください……お願いだから」
コルバーニさんは震えながら首を何度も横に振った。
「私は……」
その時。
おじいちゃんがアンナさんに斬りかかるのが見えた。
声をかけるのも間に合わない。
もう……嫌だ! 全部……いやだ。
「……やめて!!」
私の悲鳴と共に、自分の中から何かがあふれ出してくるのが分かった。
それと共に、目の前にあの時の真っ赤な女の子が見えた。
ああ……また……
でも今度は目の前が真っ暗にならなかった。
私は自分のしていることをハッキリと自覚できた。
私……全てを動かしてる。
自分の周囲の全てがゆがみ、凍り付いていく。
全部……全部……壊しちゃえ。
そんな女の子の声が響く。
でも、もう一つの声も聞こえた。
それは妙にハッキリと聞こえた。
「リム! コントロール!」
その言葉にハッと我に返った。
すると、ぐにゃぐにゃになりそうだった周囲の景色が……止まった。
その直後、目の前にライムが現れて、口を噛んだのか真っ赤に染まった唇で……私にキスをした。
ライムの血液が……身体の一部が流れ込んでくる。
すると、自分の中の暴れてる何かがスッと落ち着いた。
呆然とする私にライムがニッコリと笑って言った。
「リム……やれば出来るじゃん。そう、あなたは万物の石。でもね……リムは自分をコントロールできるの。単なる石じゃ無い。だから……大丈夫」
「ライム……」
呆然としながら目の前のライムを見た。
その直後。
私の目の前でライムの右腕が……切られた。
「え……」
私は呆然と目の前のライムを見た。
いけない……ダメだ……また。
コント……ロール。
「アリサ! ライムの腕は回収した。石の破片とこれなら何とかなる。戻るぞ」
おじいちゃんはそう言うと、振り向いて言った。
「りむ。君は……強い子だ。世界のために……決断するんだ。君の旅は……そのためのものじゃないのか?」
そしておじいちゃんとコルバーニさんは……いなくなった。
「ライム……大丈夫? しっかりして!」
右腕を失い、大量の血を流しながらライムは倒れていた。
「リ……ム……ゴメンね」
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