私の友達(5)
「ライム……謝らなくていい……だって、ずっと……私なんかのために」
ライムは青白い顔をしながら薄く微笑んでいた。
「ホント……は、リムには知ってほしくなかった。あなたの秘密を……でも、ユーリは止められなかった。だからせめて水面下で……と。でもそれもダメ。だから、戦える力を持って欲しくて……あなたに」
「分かってる。あなたは……初めてあった時から、ずっと友達だったんだよね。私の……大切な友達」
そう言うと、私はペンダントを持って願った。
まだ目の前の現実なんて受け入れられない。
でも……確かな事はある。
「私が……あなたを助ける。ライム」
「有難う、リム。でも……止めて。私は万物の石の片割れ。そうしちゃうとあなたはせっかくの力を一部失う。それに助けても……私はこの姿……維持できないんだよ。役には立たない」
「友達に役に立つも立たないもない。私は、どんな姿でもライムに居て欲しい」
そう思いながら私は青い光に自らとライムを包み込むイメージを浮かべた。
確かにライムの言ったとおり、自分から何かが流れ出ているのが分かる。
そうか……自分の半身に分けてるのか……
おじいちゃんの言ったとおりやっぱり私は……人じゃ……
そう思っていると、ライムを包む青い光が濃くなって……消えた。
そして……
「リム……」
目の前にはすっかり小さくなったライム……一番最初にあった頃のように私の握りこぶしくらいの背中に羽を生やした妖精がフワフワ浮かんでいた。
「ライム……」
「ゴメンね、リム。私、こんなになっちゃった。もう、あなたの役には……って、ひゃあ!」
「ライム……会いたかった。そのあなたに……会いたかった」
私は妖精のライムを両手で包み込むと、声を上げて泣いた。
色々失っちゃった……でも、ライムは帰ってきてくれた。
それでいい。
今は。
※
「ライム様……それがあなたの正体だったとは」
「ゴメンねリーゼ。前の旅のときも大きな姿だったもんね」
「いえ、どんなお姿でもライム様には変わりません」
「もう『様』とかいいよ。こんな成りじゃあなたには指先で弾き飛ばされちゃう」
リーゼさんの周りをフワフワ飛び回りながらしょんぼりと話すライムに、リーゼさんはニッコリと笑顔になった。
「私は強いあなたに惹かれたのではありません。人のため、世界のために自らを捨てようとしたあなたに惹かれたのです」
「リーゼ……」
泣きながらさらに飛び回るライムを見て、私は笑顔になった……が、すぐにそれも消えてしまう。
そう。私はみんなと同じ存在じゃなかった。
ずっと忌み嫌っていた存在。
結晶病を撒き散らし、強大な力と災厄を呼ぶ忌まわしい存在。
私たちの最後の敵。
それが……私自身だった。
そう思うと、笑顔なんて浮かべられない。
「ヤマモト、言っておくがおまえ自身をコントロールするのはお前しだいだ」
聞き覚えのある声が急に背後から聞こえて驚いて振り向くと、そこにはクロノさんが立っていた。
「……生きて……たの?」
「ああ、お陰でな。ライムが自らの力を使い助けてくれたのだ。お陰でお前は力をかなり減らしてしまったそうだな……すまない」
そう言って頭を下げたクロノさんにライムはふわふわ浮かんで言った。
「それはいいよ。クロノさんはリムにとって必要な人だからね。最も不必要だからって見捨てはしないけどさ」
「良かった……クロノさん」
「さて、リム! 落ち込んでる暇無いよ。私たちにはやることがある。まずはラウタロ国へ帰る。そこでエルジアに会うからね。ここまで来たらエルジアに全部説明してもらってもいい段階だからね。彼女はリムが万物の石って事は知らないけど、ユーリの事は知っている……彼と万物の石の関係も」
ライムが私の前に浮かんでそう言ったけど、その言葉は自分の中を素通りしていくようだった。
「……そう……だね」
「ねえ、リム・ヤマモト。ここにいるみんながあなたを邪悪な存在なんて思っていない。あなたはあなたでしょう。あなたがいたからみんなここまで来れた。ここに居る。それが全てよ」
リーゼさんもそう言ってくれた。
でも……
「有難うございます。……行きましょう。前に進まないとなんだよ……ね?」
※
ラウタロ国に戻る私たちを乗せた船は、夜になり暗い海の上を進む。
そんな中、私は1人甲板に出て真っ暗な海をボンヤリと眺めていた。
光の無い一面黒い絵の具を塗りたくったような海面。
それを見ているとなぜかホッとする。
光の輝きや優しさ、まぶしさが今の私には重い……
おじいちゃん、コルバーニさん……もう……苦しい。
これからもっと苦しくなるの?
手すりに持たれて漆黒の海をボンヤリと眺めていると、ふと……吸い込まれそうに……
もし……ここで、この忌まわしい存在を断ち切ることが出来たら。
突然浮かんだその考えはとても魅力的に思え、しばらく暗い海面を魅入られたように見ていた。
そう……全部……終わる。
「ヤマモトさん」
背後から聞こえた声にハッと我に返って振り向くと、そこにはマントを着けたアンナさんが立っていた。
そしてもう1枚持っている。
「お部屋にいらっしゃらなかったから、多分ここかな……って。海風は冷えますよ。良ければマントを」
そう言って手渡してくれたマントを無言で受け取ると、もそもそと羽織る。
「ありがとう」
「どう致しまして。あなたに何かあったらみんな心配します。だって、ヤマモトさんは私たちのリーダーなんですから」
その言葉に私はフッと短く笑った。
「もう……いいよ。だってコルバーニさんもいなくなっちゃった。私が忌まわしい存在だから。おじいちゃんだって……私を敵だって。そんなのに着いてっちゃ駄目だよ」
アンナさんは無言で私を見ている。
「私……もう嫌だよ。これからだってきっとみんな居なくなる。離れてっちゃう。だって私、万物の石なんだよ! これから絶対にアチコチで災いをばら撒いちゃう」
私は自分が泣いているのが分かった。
でももういいんだ。
もう決めた。
アンナさんが船室に戻ったら私は……
みんなには戻って来てくれたライムがいる。
リーゼさんもいる。
よく考えたら邪魔なのは私だけなんだ。
なにより私が居なくなれば、みんな平和な元の生活に戻れる。
おじいちゃんだって、コルバーニさんだって……
そうだよ。
やっと気付いちゃった。
私達の旅の終着点は……こうする事だったんだ。
「ねえ、アンナさん。お気遣いありがとね。もう大丈夫、私は平気だから。おかげで元気になっちゃった! ……ただ、もうちょっとだけ1人でここで海……見てたいな。いいでしょ?」
アンナさんは静かに頷くと船室への入口に消えた。
私はその後ろ姿をじっと見つめていた。
そして、ペンダントを外してそっと甲板に置く。
今まで有り難う、私の宝物。
さよなら、アンナさん。
みんなと幸せにね。
今まで有り難う……あなたのお陰で……とっても楽しかった。
パパ、ママ、ごめんね帰れなくて。
でももう二人には会えないよ。
最後にママのご飯食べたかったな……
私はびっくりするくらい落ちついていた。
不思議……全然怖くない。
私は息をつくと、再び暗い水面を見た。
私の中の石の力は邪魔するかな?
でもいいんだ。
そんな暇が無いくらい一瞬で……
私は両手を握りしめると手すりに足をかけた。
ここから……一気に!
私は息を止めると、手すりを乗り越えようとした……次の瞬間。
突然背後から強い力で引っ張られて、その勢いで甲板に背中から勢い良く落ちた。
痛……い。
驚いて目を開けると、そこには見たことのないほど険しい表情のアンナさんが立っていた。
「……様子がおかしいと思って隠れて見ていたら……あなたと言う人は……」
そう言うと、アンナさんは私の胸ぐらを掴んで立たせると……次の瞬間、頬にはげしい傷みが走った。
アンナさんに……ぶたれた?
「いいでしょう。そんなに死にたいなら……私が殺してあげます。お望み通り」
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