仲間なんかじゃない

「ライムは……あなたの仲間なんかじゃない」


 自分が言ってる言葉のはずなのに、自分じゃ無いみたい。

 リーゼさんの言った「仲間」と言う言葉が、まるで磁石のS極とN極のように私の中から弾き出されていた。


「きゃっ、怖い。リム・ヤマモトってお花畑のお嬢様かと思ってたら、そんな怖い口調でき……って、何なの小娘。ムカつくんですけど」


 リーゼさんがしゃべり終えないうちに、アンナさんが斬りかかったが彼女はいつの間にか抜いた剣でいとも簡単に受け止めた。


「……ヤマモトさんを……傷つけるな」


「小娘。あなたじゃ無理。死なないうちに先生に代わってもらいなさい」


 アンナさんはそれに答えず流れるような動きで斬りかかったけど、リーゼさんは退屈そうに受け止めていた。


「やっぱダメ。アンタの剣、悪くないけどヒネりがなくてつまんない」


 そう言うとリーゼさんは、わずかな隙をついてアンナさんに切りつけた。

 間一髪で後ろに飛び退いたものの……胸から血が流れている!


「あらあ、勘のいい子。もうちょっと下がるのが遅かったらリム・ヤマモトの前でショッキングな映像を見せれるとこだったのに」


「コルバーニさん!」


 私はコルバーニさんを見たけど、なぜかライムの方を見て微動だにしない。


「無理ね。アリサは動けない。流石にライムほどの剣士に対して背を向けるほど馬鹿じゃ無いでしょ」


 え?


「でたらめばっかり……ライムは……怖がりで、戦えないんです」


 そうだ。

 一緒にこの世界に来たとき、私と一緒に逃げていたんだ。

 怖がりのライム。

 彼女は、剣なんて……

 そう思ったとき、ライムはそれに答えるかのように右手から小さく光る棒のような物を出して、まるで弾丸のようにコルバーニさんに向かって飛びかかった。


 コルバーニさんはすぐさま受け止めたけど、ライムは見たことも無い動きでコルバーニさんの周囲を飛んでは飛びかかっていた。


「ねえ……ライム。やめてよ……危ないよ。怪我したら……どうするの」


「リム・ヤマモト! いい加減お花畑から出たらどう? あなたは今まで傍観者で居たつもりかも知れない。でも、あなたはその石……万物の石を使ったその時から、傍観者なんかじゃない。……なの!」


 選ばれし……者。


「その石の事はライムから聞いてるでしょ? どれだけの力を持つものなのか。そして、発動させて、人を殺しかけたあなたなら分かるでしょ。わがラウタロ国はその石の奪還と操作に国家の威信をかけている。この世界を救うために。あなたは必ず我が国に協力してもらう。……どんな事をしても。『万物の石の扉』を唯一開くことの出来る鍵だから」


「万物の石の……扉?」


「あなたはいまや唯一の鍵。だってユーリは……」


 その時、リーゼさんの言葉をコルバーニさんの怒声がさえぎった。


「黙れ!」


 それはリーゼさんとライムに向かって言っているように聞こえた。


「それ以上言うな……リーゼ。そしてライム! なぜ裏切った。そんなに……私を許せないのか。あの時からずっと……あなたは許してなかったのか」


 許せない?

 え? どういう……


「アリサ。リムが聞いてるよ」


「黙れ! ずっと……家族だと……思ってたのに!」


 コルバーニさんは、今まで見たことも無いくらいの早さでライムに向かって斬りかかっていた。

 でも……何で? ライムはその全てを軽やかによけている。


「アリサ、怒りすぎ。あなたは昔から感情的になると、太刀筋が丸見えになる。あと、背後の注意力も著しく落ちる。リーゼが狙ってるよ」


 ライムの言うとおり、まさにリーゼさんが斬りかかろうとしてたけど、アンナさんが防いだ。


「クロノ院長! ヤマモトさんを建物の中に! その後この建物から彼女含む子供達全員を逃がせ! 15分以内で!」


 アンナさんのその言葉が合図になったかのように、クロノさんが私の腕を引っ張った。


「リムと言ったな……行くぞ」


「いや! 行かない!」


 絶対に嫌だ。

 だって……今離れたら……コルバーニさんやアンナさん……ライムと二度と会えないような気がする。


「ダメだ! よく分からんが、離れろ!」


 そう叫ぶように言ったあと、クロノさんは私に耳打ちした。

  

「……あの子は……火薬を持っている」


 火薬……それって。


「ヤマモトさん。後はオリビエとブライエを……頼ってください。どうかお幸せに……」


 そう言って身体のあちこちから血を流してほほ笑むアンナさんの顔を見ていると、涙が溢れてきた。


 アンナさん……いやだ。

 コルバーニさん……いやだよ。

 ライムも……ねえ? なんでこうなるの?

 誰のせいなの?

 誰の……

 誰の……


 その時、胸のペンダントが光っているのが分かった。

 血のような……真紅に。


「嫌だ……全部やだ。あなたのせいだ……みんな……あなたが悪いんだ!!」


 私の叫びに呼応したかのように胸のペンダントからの真紅の光が渦を巻いて、周囲に立ち上った。


 ……一度だけ。

 一度だけだから……もう絶対しないから……あのを消して。


 私の前に現れた赤い大きな犬は、あの時と同じように黒煙の息を吐いていた。

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