新しい挑戦

 良かった。二人とも無事だったんだ。


「リム様! お怪我は? ……ああ! 良かった! ご無事なようで。リム様をお一人で向かわせた罰、この無能の身にいかようにもお与え下さい」


「いいよ! いいってば……だから顔上げて」


 その場に土下座するブライエさんを必死になだめて、何とか顔を上げてもらった。

 ほっとくとこの場で切腹しかねないよ。


「本当にすまなかった。思ったより手間がかかった。怪我が無いようでなによりだったが……謝罪の言葉も無い」


 苦しそうな顔でつぶやくオリビエに私はニッコリ笑って言った。


「大丈夫。二人こそ怪我無くて良かったよ。私とライムはこの人に助けてもらったんだ」


 そう言われて二人はようやく、横のコルバーニさんに気づいたらしく、その途端引きつった表情になった。


「……コルバーニ……先生」


 あ、やっぱりこの人が前にオリビエが言ってた、二人の剣術の師匠だったんだ。


「オリビエ、ブライエ。私の言いたいことは分かるよね」


「……はい。守るべき対象を結果として単独で危険地帯に向かわせてしまった」


「あと1つは?」


「……コルバーニ先生に気付くのが遅れた」


「ご名答。私は大変にショックを受けている。お前らさあ、敵を片付けるのに何分かかった?」


「私が5分。ブライエが5分30秒」


「遅い! それだけ手間取れば、警護対象は完全に目の届かないところに行く。今回のように。それから対象を探すのにさらに時間を消費。今回行うべきはどんな手を使っても、どちらか一人で二人を相手し、もう一人で対象の確保だ。私が追ってなければ山本りむとライムは連れ去られていた」


 コルバーニさんの言葉に二人は言葉も無く俯いている。


「そもそも私がいなかったらどうする。山本りむとライムが連れ去られていた場合。どのようにするつもりだった」


「ギルドと自警団に連絡し、カンドレバの出口を封鎖します」


「カンドレバ内にひそまれたら? この街は広い。少女と小さな妖精への狼藉ろうぜきなどこの街の中で完結する。ギルドも自警団も一枚岩ではないし、賄賂わいろも効くほど腐敗ふはいしている。もっと考えろ。正解は……」


「私の家族を使います」


 オリビエの突然の言葉に私は思わず、彼の顔を見た。

 その表情はまさに一点の曇りもない。


「そうだな。お前は言っていた『彼女たちを必ず元の国に返す』と。ならば、あらゆる手段は必要になる」


「はい」


「よし。後……オリビエとブライエ。明日、お前らは道場に来い。特別メニューだ。今回のヘマの分」


 その言葉に二人はまるで、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。

 一体どんなメニューなんだろ……


「じゃあ大馬鹿二人は終わったことだし……」


 そう言ってコルバーニさんは私の前にスタスタと歩いて来ると、ニッコリと無邪気な笑みを浮かべた。


「さってと。じゃあリムちゃん……私との約束守ってもらおうかな」


「あ、あの……何を……」


「ふむ。まず一つ目は『私と友達になること』」


 え? 友達……


「そんなビックリしなくてもいいじゃん。初めて会った同胞だよ。仲良くなりたいに決まってる。まして、りむちゃんみたいな可愛い子と……。ああ、一緒にパフェとか食べたいな。それに1つのジュースを二人で一緒に飲んだりさ……真ん中から分かれたストローとかで」


 途中からニンマリしながらブツブツつぶやいているコルバーニさんは、何やら不穏なオーラが漂っていた。

 なんか……こんな人だっけ。


「おっと、ヤバいヤバい。妄想の世界に……で、もう一つなんだけどさ。私の下で剣術を習ってよ」


「け……剣術?」


 私はポカンとした。


「剣術って……あの剣術ですか?」


「そだよ。それ意外に何があるのさ。リムちゃん、おもろいね~」


「あ、あの! お言葉ですが師匠」


「何? ブライエ」


「リム様は私とオリビエが命に代えてもお守りするので、それは……」


「守れなかったじゃん」


 一刀両断、とでも言わんばかりの口調にブライエさんは二の句が継げなかった。


「それにさ。今はそう言えるかも知れないけど、この先何が起こるか分からないよ? その時、一人でも最低限身を守れる技術はいるでしょ。何もあなたたちと同じメニューをやらせるつもりはない。道場でやってる女子向けのソフトコースだから」


 なるほど。

 確かにコルバーニさんの言うとおりだ。

 今回だって、自分の身を守れる力があれば、二人が来るまで時間稼ぎだって出来た。


 それに……

 私の中で、先ほどコルバーニさんが見せた羽のような軽やかで美しい……まるでダンスを踊っているような動き。

 あんなのが出来たら……


「あ、あの! ぜひ……お願いします」


「リ……リム様!」


「リムちゃん、無理はするな。今回のようなことはもう……」


「ううん。確かにコルバーニさんの言うとおりだなって。私、ずっと誰かに守ってもらってばかりだった。誰かの助けを待ってるばかり。自分でも最低限の事は出来るようになりたい。もちろん二人のことは心から信頼してる。でも……それとは別に。それに、今日の4人の人たちは私を狙ってた。そんな事言ってた」


「……やはりか。完全に俺の事に巻き込んだな。済まない」


「それはいいの。でも、そうなると余計に何かあったときのためにも。ペンダントの力だっていつ出てくれるか分からないし。」


「おお! さすがリムちゃんは凄いね。二人とも。彼女の意思を尊重するべきじゃない?」


「……分かった。だが、決して無理はするな」


「限界が来たら言って下さい。すぐに退校手続きを……」


「いちいちうるさい。この場で首落とすよ」


 コルバーニさんの言葉に、ブライエさんは顔を引きつらせて黙った。

 いやいや。

「女子向けのソフトコース」でしょ?

 大丈夫でしょ。

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