おかっぱちゃんと4人の男

 私は息を切らせながら男の人を追いかけていた。


 水泳をしていたせいだろうか。

昔から体力には自信があって、不登校しているとは言えこういった持久力では遅れを取らない。


 何より、オリビエとブライエさんが居てくれる。

何かあってもあの人達が……にしては、気配がない?


 嫌な予感に周囲を見ると……二人がいない。


 嘘! なんで。

うぬぼれてる訳じゃなかったけど、二人が最初の時一緒に来てくれる感じが確かにあった。


 何かあったのかな?


 さっきの人が建物の間の路地ろじに入るのを確認した。

私は少しの間途方とほうに暮れて突っ立ってたけど、すぐに気持ちを切り替えた。


 ライムは弱っちいけど姿も消せるし何とかなるだろう。

でも、あのカバンはオリビエから初めてもらった物。

人からの贈り物はその人の心が詰まっている。


 大丈夫。相手は1人。

いざとなったら大声を上げて周囲の人を呼んで……


 私は意を決して路地に駆け込んだ。

すると……


「……嘘」


 私は呆然とその場に立ち尽くした。

そこには4人のいかつい男の人と、そのうちの1人にまるでスーパーで買ったネギのようにつかまれているライムの姿だった。


「お嬢ちゃん、ちゃんと来てくれたね。エラいエラい」


 山で遭難そうなんした後の人みたいに、顔中ひげもじゃの人がニヤニヤと笑いながら言う。


「もし、追いかけてこなかったらどうすんだよ、と思ったけど流石さすがだね兄ちゃん」


 お風呂に2週間くらい入っていないのかな?と思うような、顔中脂ぎった角刈りの人が嬉しそうに言った。


「女はバッグを命よりも大事にする。コイツを盗れば大体パニクって追いかけてくるんだよ」


「おお!」


 1年近く部屋に引きこもってたかのような、不健康そうな顔立をしたボサボサ髪の人と、ライムをつかんでいるカップ麺ばかり3食1年中食べてるのかな? と思うような、プックリ太った人がそれぞれ感心したようにうなづく。


「え? ……私を……」


 私は身体が震わせながら小声で言った。

この人達の言うとおりなら、スリじゃなく私を狙っていた?


「そうそう! ある方から頼まれてな。お前をあの2人と二度と一緒に行動出来ないようにしろ、って」


「お嬢ちゃんの守り神さんも、俺たちの仲間がお相手してるよ」

 

 カップ麺さんが得意そうに言った後、角刈りさんも続けて楽しくてたまらないと言わんばかりに続けた。

 

 そうか、だから2人は……って言うか、これってかなりマズい。


「リム! 逃げて。私も何とかするから」


「え……でも……」


 そんな事出来るわけ無い。

私は……誰かを見捨てたくない。


「出来るわけ無いよな。情報によると、お嬢ちゃんそういうの大嫌いらしいな。……そうそう、ついでに言うともし、お嬢ちゃんが逃げたらこのチビの手足をへし折って、見世物小屋に売りさばくからな」

 

 ひげもじゃさんは無表情でつぶやいた。

間違いなく本気であることは分かる。


「そんな……」


「ふむ、おとなしくなったな。聞き分けのいい子はおじさん大好きだよ。じゃあおいで。今からいいところに連れていってあげるから」


「……いい所ってどこですか?」


 私の言葉にカップ麺さんが言った。


「言う必要は無い。……って言うか、お嬢ちゃんなかなか可愛いね。こんな子を好きに出来て、報酬もらえるってかなりおいしいよな」


 その言葉に血の気がサッと引くような恐怖を感じた。

ライムがカップ麺さんに、わめきちらした。


「ふざけるな、バカちん! 変態!」


「お前には言ってねえよ、小バエ」


「なっ!……アンタこそ生まれ変わったらミジンコだからね! バーカ!」


「うるさい! とにかく連れていこうぜ。こんなに可愛いならバッチリいい商品じゃん」


 怖くなり、涙ぐみながら思わずその場にしゃがみこんでしまった時。


 急に背後から声が聞こえた。


「うんうん、確かに可愛いよね。おじさんたち、いい趣味してるね~」


 ……嘘、また敵。


 絶望で頭が真っ白になりながら振り向くと、そこには真っ赤なワンピースを着て、同じく真っ赤で大きなリボンを着けた黒髪おかっぱの女の子がすまし顔で立っていた。

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