オリビエの事情

「ふむ、さっきまでのりむの心臓マッサージが呼び水だったみたいだね。感情、メチャ高ぶってたから」


 え……そうなの?

 

 でも、今出てきてももう……あ、そうだ! ブライエさんの傷を治してもらおう。

 私はオリビエの時と同じく、ブライエさんの方に手を伸ばした。

 すると、鳥さんがブライエさんの方にピョンピョンと跳ねながら近づき、片方の翼をそっと振り上げた。


「これは……痛みが……ない」


 オリビエの時と同じく、ブライエさんも骨が治ってくれたらしい。

 良かった……


「有り難う、鳥さん」


 青い鳥さんの頭を撫でると、目を細めて心なしかうっとりしているように見える。

 前回の時は気付かなかったけど、結構可愛い子だな。


「そうだ。鳥さんじゃなんだから名前つけたいな。えっと……青色だから、青い石のラピスラズリから取って『ラピス』はどう?」


 そう言って頭を撫でると、ラピスはまた目を細めてもっと撫でてくれと言わんばかりに首を垂れた。

 その様子が、種類は全く違うけど何となくテンを思い出させた。

 そして、ラピスは色がにじむように徐々にぼやけていくと、空気に溶け込むように……消えた。


「リム様、一度ならず二度までも……誠に有り難うございます」


 ブライエさんが深々と頭を下げたので、私は慌てて両手を振った。


「そんな! 元々はブライエさんが私を助けてくれたから。そのお返しです。……私ももっと気をつけないと。それに、何かあったときのために武器も使えるように……」


「それは大丈夫です。私が居る限り、リム様は武器も防具も必要ありません。私があなたの矛であり盾になりますので」


「えっと……」


「はい、そこまでだ。リムちゃん本気で困ってるから。そろそろ、行くぞ。今日中に森を抜けたい」


 オリビエの言葉に私たちは荷物をまとめた。


 そうだ。

 つい油断しちゃったけど、さっきの化け物の一件でこの世界の恐ろしさを改めて実感した。

ここはライムの言ったとおり、モンスターがいるんだ。

 しかも命を平気で奪いに来るような。

 自分がサファリパークの真ん中に投げ出されたように感じ、思わず身を震わせた。


「そうだ、オリビエ。昨日、ブライエさんと『二枚の地図』の事を言ってたけど、あれって何なの?」


「ああ、君が助けに来てくれた時の会話か。あれは今回の依頼なんだ。『足掻あがきの森』……この森だが、ここで過去に一大勢力を築いた山賊集団がこの森のどこかに残した隠し財産。その地図を見つけてくれ、って依頼だったんだ」


「へえ……」


 凄い。宝の地図探しなんてロマンがあるなぁ。


「とはいえ、この森は中々やっかいなモンスターが居る上に、俺たちは少人数だからな。難儀なんぎしたよ」


「そう。リム様が来て下さらなければ、依頼どころかこうしてのんきに歩くことも叶わなかった」


「そんな……」


 そう言った所で、ふと3人の男性の事が頭に浮かんだ。

 オリビエを追ってきたって言う人たち。


「そう言えば、最初に襲ってきたあの3人はなんだったの?オリビエを狙ってたみたいだけど」


「それは……」


「ブライエ、それは言う必要の無い事だ。これ以上彼女を深入りさせるな」


 オリビエの静かな、だがキッパリした口調にブライエさんはわずかに頭を下げた。

 何があったのかな……


 それから1時間ほど歩いただろうか。

 

 オリビエからもらったカムラの実をチョコチョコつまみながら、頻繁ひんぱんに休憩を入れてもらっていた事もあり、負担をそこまで感じることもなく進むことが出来た。

……あと、ブライエさんが隙あらばおんぶしようとしてくるため、必死に平気な振りをしてた事もあるけど。

 

 そして、天をおおうような高い木が少なくなってきて、少しづつ日の光が差し込んでくる明るい景色が増えてきた。

 そして、道も段々と開けてきたなぁ、とホッとしていると……


「もう森を抜けるぞ」


 オリビエの言葉通り、やっと永遠に続くかと思うくらいの深い森を抜け、最初の時のような丘に出た。

 そしてそこには……


「うわあ」


 私は思わず声を出した。

 丘の向こうに広がっていたのは、眼下の景色の3分の2を覆うような大きな街だった。

 それは城塞じょうさい? って言うのかな……壁のような物に周囲を覆われ、周りの高い山々と合わせて、まるでファンタジー映画の一場面のような非現実的な光景だった。


「あそこがカンドレバの街。この国の中でも首都アレンに次ぐ規模を持っている」

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