私はこれでいい

「もう! ライムの奴、でたらめ教えて! あのバカの前で大恥かいたじゃんか」


 まだ、気にしてたんだ……


「あの……コルバーニさん、聞きたいことがあるんだけど、何であの人お母さんの事をあんなに知ってたの?」


「ふむ……多分リムちゃんも知ってると思うけど、ユーリとライムちゃん、私は当時からこの世界と地球上の世界を行き来していた。理由は太古の昔に万物の石の暴走でアチコチに開いた、この世界と地球上の世界を結ぶ穴を塞ぐため。でないとこっちのモンスターとか住民や、地球人がそれこそ異世界転移しまくっちゃうからね。お陰でほぼ全て塞いだよ」


「それが、ライムの言ってた秘密なの?」


「ううん。それは違うと思う。でも、何なのかは分からない。あの娘は……ちっとばかり底が見えないね。私たちがやってたのは、太古の人たちのやらかした後処理だね。でも、ラウタロ国も独自に万物の石のレプリカを生成し……チャチなものだけどね。その力でリムちゃんたちの世界にも顔を出してるんだよ。ユーリの家族だからね。ウィザードもチェック済みってわけ」


「太古の人たち……やっぱり、感情が暴走しちゃったのかな? その……私……みたいに」


「石の力なのか、石の力に酔ったのか……それは分からない。でも、最後はそれを制御する強い気持ち……勇気だよ」


「勇気……」


「そっ、リムちゃんなら大丈夫だよね?」


 私は笑おうとしたけど、まるで鏡に向かって練習したみたいな変な笑顔になった。

 胸の奥がズキリと痛む。

 私はやっぱり弱い子だった。

 きっと……また赤い犬さんを出しちゃう。

 もう嫌だ。

 あんな事は……怖い。自分の弱さが怖い。

 ペンダントはもういい。

 コルバーニさんみたいな人が持つべきなんだ。

 強くて優しくて、感情に流されないこんな人が……

 私は足を引っ張らないように。それだけ考えよう。


「あの……ペンダントだけど、コルバーニさんにあげる」


「え……」


「ほら、私持ってても危ないから。またみんなを困らせたり怖がらせちゃう。私、学校でもずっとみんなの足引っ張らないように頑張るってポジションで、それが性に合ってるって言うか……」


 そこまで言いかけた私の口を、コルバーニさんは指先でそっと押さえた。

 そして、子供に対する母親のような微笑みで言った。


「学校では……納得してた?」


「……」


「リムちゃんが納得してたなら正解だと思う。ペンダントもリムちゃんが心からそうしたいのであればいいよ。でも……リムちゃんは心から『納得』してるのかな?」


 私は何も言えなかった。

 納得……


「人って『勇気』も大事だけど『納得』できてるかもすっごく大事。自分の心に納得できてれば、人はその選択に自信を持てるし勇気も出せる。誰かに何か言われてもブレたりしない。でも、納得できてないと何かの折にまた色んな余計な考えがウワーって沸いて出ちゃうよ。誰かに人生の選択を任せちゃダメなのはそういうこと」


 私は何も言えずにコルバーニさんを見た。

 じゃあ……どうすれば。


「すぐに考えられるものじゃないからゆっくりでいいよ。それまでペンダントの事は保留にしとくね。……リムちゃん、どうしても分からないときは『目の前で泣いてる子供がいて、そこに自分しかいなかったらどうする?』って考えてみて」


 想像したけど、すぐには浮かばない。


「このカーレにいる間に考えといてよ。それがお姉さんからの宿題。街を出る目処が立った時に答えを聞くからね」


「……分かった。頑張る」


「頑張らなくていいよ。その代わり、私やみんなと一緒にカーレで色々なものを見て。見たくないものもあると思う。でも、今のリムちゃんはそれを見る時期。嫌なのや汚いものも自分の目で見て受け止める。自分の中から出てくる物も含めて。それを自分の中で『納得』のフィルターで選り分ける。大人になるにはそんな時期が必要。そうお姉ちゃんは思うんだな」


 私は渋々頷いた。

 なんでそんな意地悪するんだろ……

 私はもう学校にも行かない。

 ここでも色んな人が守ってくれる。

 たまに出しゃばったらあんな事になる。

 なのに、なんで……


 そんな事を考えてどんよりとした気分になっていると、突然耳に何かを叩きつけるような大きな音が聞こえた。


「何! 何なの!」


「行こう!」


 コルバーニさんに手を引かれて、みんなの所に戻ると……


「な……なんじゃこれは~!!」


 コルバーニさんの悲鳴混じりの声が響く。

 私も呆然と目の前の光景を見た。


 そこには荒れ果てた店内が。

 テーブルも沢山倒れていて、店の真ん中には大きな男の人が仰向けに倒れている。

 そして……その前には世にも恐ろしい表情をしたブライエさんとアンナさんが仁王立ちになっていた。

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