主演・コルバーニ
「大馬鹿ども。言いたいことは山のようにあるがそれは後だ。オリビエ、お前は関わってるか? 大丈夫か。では、すぐにこの場を離れ、適当な宿を確保しろ。後は……我らを殺しかねない表情でこちらに歩いてくるマスターと、袋だたきにしかねない客どもへの対応だな。それは私がやろう」
コルバーニさんはそう言うと……突然シクシクと泣き出した!
え? ええっ!?
そして、両手で顔を押さえると肩をふるわせて、マスターさんの所へ歩いて行くと、か細い声で言う。
「……ごめんなさい」
「お嬢ちゃん。後ろの奴らに話があるんだ。どいてくれないか」
「いや! パパとお姉ちゃん……連れていかないで。私、また独りぼっちになっちゃう!」
「悪いがこっちには関係ない。騒動の落とし前をつけてもらわないと行けないんだ」
「私……パパやママが殺されてから、ずっと悪い人たちに酷い目にあってて……やっと助かったの。新しいパパとお姉ちゃんが出来て……嬉しかった。もうこんな怖い思いしなくていいんだ……って」
そう言うとコルバーニさんは、ワンピースを胸の上ギリギリまで降ろし、足下もギリギリまでまくり上げると、この前取れてくっつけ直した右腕や他の部分の傷跡を見せた。
その……綺麗な肌と、
コルバーニさんはしゃくりあげながら続ける。
「ずっと悪い人の所にいて……一杯いじめられたの。やだって言っても……いじめられて。後ろのお姉ちゃんに助けてもらって、やっと私にも家族が……もう、独りぼっちはやだ! 怖いのもヤダ! お願い……もうしません。パパやお姉ちゃんにももうさせませんから……ごめんなさい……ごめんなさい!」
そう言いながらもう号泣の域に入った泣き方で、何度も頭を下げる。
それまで殺伐としていた場の空気は、明らかに困り果てたような空気になっていた。
そんなタイミングでコルバーニさんは、よろよろとマスターさんの所に肌を露出した格好で歩いて行くと、懐から革袋を出して、中から金貨を数枚差し出した。
「これ……パパとお姉ちゃんにいつもありがとう、って……プレゼント買おうと思って貯めてたの。少ないけど、お店……直して下さい」
え? あれってこの前オリビエとポーカーやって巻き上げた金貨! カーレで飲み代にするって言ってたやつだ。
でも、マスターさんはコロッとだまされたようで首を数回横に振ると、ため息をついて言った。
「もういいよ、お嬢ちゃん。それは取っとけ。おい! そこの馬鹿野郎ども! ……運が良かったな。この優しいお嬢ちゃんに免じて今回だけは見なかったことにしてやる。次は無いからな。とっとと出て行け、クズどもが!」
「……ありがとう。わたし……ずっと忘れないよ、お兄ちゃんの事。また、遊びに来てもいい? だって……お兄ちゃんに会いたいもん」
そう言って涙で頬を濡らしながら、まさに「天使の微笑み」でマスターさんを見つめるコルバーニさんに、マスターさんは照れ笑いを浮かべながら言った。
「気にするな。ガキに罪は無いだろ……ああ、あと何かあればこの店に来い。もう泊めてやることはできねえが、この街で役に立つ事があれば、お嬢ちゃんにだけは教えてやる」
「ほんと? お兄ちゃん大好き! また助けてね。……いこ。パパ、お姉ちゃん、もう一人のお姉ちゃん。じゃあね、優しいお兄ちゃん!」
※
「……まさか、先生があんな事まで出来るとは思わなかった! ねえ、ヤマモトさん? 凄くないですか! ……さて、あとはオリビエさんと合流ですね! 早く早く!」
「まさに先生の高度な芝居と判断あっての物。深く感謝いたします。さて……では早急にオリビエと合流しましょう。 一刻も早く! そうですよね? リム様」
「……ごまかそうとしても無駄だぞ。バカども」
先頭を歩いていたコルバーニさんは振り向くと、抜き身の剣を二人に向けた。
笑顔を浮かべてるが、分かりやすく引きつっている。
あ、あの……コルバーニさん、もしかして……キレてません?
「私の美しい柔肌をあんな野蛮人どもにさらす羽目に会うとはな。優秀な弟子を持って嬉しいよ。すぐに事情を話すか、私と殺す気で斬り合うか選べ。特別サービスだ。二人がかりでもいいぞ。」
二人は金魚のように口をパクパクさせている。
あ、マンガみたいな事ってホントにするんだ……
「おおよそ見当は付くがな。酔った拍子にどちらが山本りむの従者にふさわしいか! で揉めているところに、他の男が絡んできた。『うるさい!』とか。それで……か? それとも、お手洗いに立った山本りむの事を変な風にからかっていた男がいて、激高したか?」
「……素晴らしい、先生。このブライエ、先生の推察、心から感服いたしました。ただ……僅かに訂正するなら、正確には……その両方です」
「そうか。それは済まなかったな。では、そのお詫びに貴様とアンナには、宿で落ち着いた暁に私と木刀にて『実戦に限りなく近い手合わせ』を行ってやろう。どうだ? 嬉しいだろう?」
二人は分かりやすく嫌そうな表情を浮かべていたけど、コルバーニさんに無表情で見つめられ、コクコクと頷いた。
「ふん! 全く。今頃あの宿で酒を浴びるほど飲んでたはずが、エラい目に……ん?」
え? え? なに?
ポカンとしながら視線を向けると、そこには鉄の鎧を着けたゴツい男の人が3人立っていて、そのゴツい人たちは淡々と言った。
「滞在許可証の確認を行う事は知ってるな? 速やかに見せろ」
ああ、あれ。
私はカーレに入る前にオリビエからそれぞれもらった、クレジットカードみたいな大きさの板きれを首からぶら下げたのを思い出した。
オリビエが言うには、カーレはよそ者の把握に神経質なほど厳しく、街が運営する公設軍隊が不定期に見回りを行うため、滞在許可証が無いと捕まっちゃうんだって……怖い。
ブライエさんとアンナさんがそれぞれ見せて、ゴツい人たちは確認すると頷いた。
あ、案外あっさり行くんだ。
じゃあ私も……って、あれ?
私は、冷や汗が全身から出てくるのを感じた。
許可証が……ない。
「お前……許可証を早く見せろ」
「あ……あの……」
しどろもどろになりながら必死に探すけど、どうしても見つからない。
何で……
「まさか、持ってないのか? ではそこの赤いワンピースの女と共に来てもらおう」
え? 赤いワンピース……
驚いて見ると、コルバーニさんもゴツい人たちの1人に後ろ手に縛られていた。
なんで……私たちだけ。
その時、脳内にある考えが浮かんだ。
もしかして……
「お、リムちゃん気付いたかね? バッチグーだよ。そう、多分リーゼにやられたね」
そうニヤニヤしながら言うコルバーニさんの顔を見ている内に私も後ろ手に縛られた。
「ブライエ、アンナ。しばらく別行動だ。案ずるな! 必ず無事に帰る。我らを信じろ!……ってこのセリフ言ってみたかったんだよね。こういう悲劇的な展開、ドラマみたいで憧れてたんだよね~」
「……私は特に。おいでライム。ちゃんと隠れててね」
「え! 私も行くの?」
そう情け無い声で言うライムの言葉を聞かなかったフリして無理やり服の中に突っ込んだ直後、私とコルバーニさんはゴツい人たちに連れて行かれた。
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