ウィザード
お母さんは、私の方を見たためすぐに目が合ったけど、
なので、口をキュッと引き締める。
嘘……どうしてここに。
お母さんは指で店の奥……お手洗いを指さすと、優しく
「リムちゃん、どうしたの?」
ハッと我に返ると、コルバーニさんが真剣な表情で私を見ていた。
「……ううん……何でも無い! 大丈夫」
「ならいいけど、隠し事は無しだからね」
「もちろん。大丈……夫」
私はドギマギしながら頑張って平静を装った。
お母さんのあの仕草は明らかに「内緒」と言う事だった。
お母さんは昔から、ああやって指を唇に当てる事を好んでしていた。
コルバーニさんも不信感を持たなかったようだ。
ホッ。
「あの……ちょっとお手洗いに。お店の奥だよね」
「そうだよ。ただ、私かアンナに前まで同行させて。この街は本気で油断できないから」
「……うん。分かった」
お手洗いに向かいながら私の心は千々に乱れていた。
お母さんに会えた嬉しさ。
なぜここに? と言う混乱。
そして罪悪感。
これ以上は……絶対。
感情を絶対に乱さないように……みんなみたいに冷静に。
そうこうしている内にお手洗いに着き、私は中に入った。
すると、個室のドアが小さく開き、お母さんが手招きするので、急いで向かった。
お母さんは、私の顔に口を近づけるとそっと小声で言った。
「久しぶりね、りむ。……会いたかった」
「……お母さん」
ああ、ダメだ。
もう涙が溢れてきちゃう。
「時間が無いから手短に言うね。りむ。私と一緒に来て」
「えっ?」
「今、私はおじいちゃんと一緒に、万物の石の調査を行っている。その旅にりむの力が必要なの」
「……私の?」
「ええ。ただ、それはすごく秘密にしないといけないものだから、他の人たちには知られては行けない。あの妖精にもね。だからコッソリ来て欲しいの」
「……うん、わか……」
言いかけたその時。
あれ?
私の中に小さな新芽のような違和感が出てきた。
「どうしたの? りむ。早くしないと……」
「お母さん。一個だけ聞かせて。……なんでこっそりなの? お母さん、昔から私に『枠から外れるな』『決まりを守れ』って言ってた。それはどんな時でも。それなのに、おじいちゃんが知ってるライムやコルバーニさんにまで内緒なんて、お母さんが言うなんて思えない。そういうのお母さん凄く嫌がってた」
「ごめんね、りむ。そのくらい秘密に……」
「私、色々聞いた。ライムやコルバーニさんとおじいちゃんとのこと。……ねえ、お母さん……本当にお母さんなの?」
その途端。
私の喉元にヒンヤリとした何かが押しつけられた。
「鈍い子だと思ってたのに、意外と考えるじゃ無いの」
私はそっと喉を見ると、細長い刃物みたいなのがあった。
私は震えながらお母さん……みたいな人を見る。
「もう必要ないか」
お母さんはそうつぶやくと、片手で顎を掴むと……ベリベリと剥がし始めた。
小さく悲鳴を上げる私に構わず
こんな綺麗な人、お母さんじゃ無い!
……って、ごめんなさい。
「リム・ヤマモト。私と来なさい……嫌と言っても連れていくけどね」
「どこに……ですか」
「ラウタロ国。嫌と言っても……」
そう言いかけたモデルさんは、急に私から離れて横に飛び退いた。
「嫌といったら……どうするの? わたしにも教えてよお母さん」
私はヘナヘナと足から力が抜けていくのが分かった。
そこに居たのは、短い剣を持ち薄く微笑むコルバーニさんだった。
「コルバーニか……」
「久しぶりだね、リーゼ」
え、お知り合い?
「私の存在は消していた。手間取りすぎたか……」
「ううん、最初っから気付いてたよ。でも、カーレで目立ちたくないんだよ。ちっとばかり
リーゼと呼ばれた人は険しい表情でコルバーニさんをにらみ付けた。
コルバーニさんは
「今からどうしようね? 感動の再会を祝して一緒にケーキでも食べる? リーゼも手ぶらで帰ったら『ウィザード』で肩身狭いでしょ? テンション上げてかないと」
「ウィザー……ド?」
「そ。ラウタロ国の諜報機関。この世界の中でもトップクラスの能力を持つと言われている。……今回みたいなヘマもするけどね~。このネズミはそこの諜報員で、長官ニコラ・ザクターの右腕と言われている。今は万物の石にご熱心。その過程で私とユーリとお知り合いになったんだ」
「貴様さえいなければ上手くいったんだがな」
言い終わらないうちに、りーぜさんの姿が消えた……と思ったら、コルバーニさんと剣をギリギリと押しつけ合っていた。
これ、テレビでよく見る奴だ!
そう思った途端、二人は小さな動きで切りつけ合っていた。
でも……これって一進一退ってやつ?
コルバーニさんの羽のような動きが全て防がれている。
でも、りーぜさんの動きも同じく全て軽々とはじき返されてる。
……まさに互角だ。
りーぜさんは、後ろに小さく飛び退くと、苦笑いを浮かべて言った。
「つい熱くなっちゃった。あなたと斬り合うのはお互い時間の無駄ね。うるさいハエ」
「え! ハエだなんてひど~い! そういうのセクハラって言うんだよ。覚えとこうね」
「セクハラの使い方間違ってるじゃ無いの、お馬鹿さん。……じゃあね、リム・ヤマモト。いずれ、また」
そういうと、リーゼさんは私たちの前を平然と通り過ぎ、そのまま出て行った。
助かった……
ヘナヘナとその場に座り込んだ私の背中を優しく撫でながら、コルバーニさんはポツリと言った。
「ねえ、リムちゃん。あれってセクハラじゃないの?」
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