再会はラグビーのように
サリアちゃんはそう言うとリード君と共に先に門をくぐった。
サリアちゃん、本当にちゃんとしゃべれないんだ……リード君は勉強不足と言ってたけど、精神的な所もあるのかも……
私は正直まだ不安はあったけど、それでも二人をもう一度だけ信じたいと思った。
誰かに見限られる。
その事の辛さは私自身経験があるけど、あれほど辛いことは無い。
不登校になった頃。
それまで私に話しかけてくれてたクラスメイトの男子が、私に登校を促すために家に来てくれた。
かたくなに登校を嫌がる私に対して、彼は30分くらいずっと話してくれてた。
その人に入学以来、密かに憧れを持ってたこともあり、気持ちは揺らいだけどもうちょっと時間が欲しかった。
私はその事を蚊の鳴くような声で何とか訴えた。
でも、彼は小さく……聞こえるか聞こえないかくらいのため息をついた。
そして「もし、気が変わったらまたクラスに来いよ」
そう言って、文字通りそそくさと帰っていった。
彼は他に何も言わなかった。あの時。
でも、私の耳にはいくつもの声なき声が聞こえてくるようだった。
そして、ほのかな初恋相手からのその目……諦めの光を含んだ目と声なき声は、私の心にトゲが刺さったみたいな痛みを与え、それはずっと消えなかった。
誰かを見捨てたくない。
それと同じくらい見捨てられたくも無い。
今、二人を信じないことはあの時の私自身を見捨てているように感じられた。
こじつけかもだけど。
そんな事を考えながら目の前の建物に近づくと、横のグラウンド? から子供達の歓声や大声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん、ずるい! ちょっとは手ぇ抜いてよ!」
「甘い! 大人になるってのは、清濁併せのむと言う事。買った方が相手のお菓子もらえる約束でしょ」
「せいだく……? また訳分かんない事言う! 僕らのお菓子巻き上げたいだけじゃん! 新入りのくせに」
「そうそう! そういうの……えっと……『大人げない』って言うんだよ。新入りのお姉ちゃん」
「お姉ちゃんじゃ無い! 私は子供だ! 何度言わせる」
あれ? あの声……どこかで。
驚いた私は慌ててグラウンドの方に走っていった。
すると、そこには何人かの子供が輪になっており、その中心に木刀を持った男の子と……そして……向かい合っている女の子は……
「アンナさん!!」
思わず大声を出した私を見たアンナさんは、元々おっきな目を飛び出しちゃうんじゃ無いかと思うくらい見開いて、両手で口を覆った。
そして、私に駆け寄ってくると抱きついてきた。
でも、その勢いはまるで昔テレビで見たラクビーのタックルのような体当たりをされ、その勢いで倒れ込んだ。
え? え?……何!?
目が回ってしまい、上空のぐるぐる回る白い雲しか目に入らない私の耳に、アンナさんの号泣だけが飛び込んでくる。
「ヤ……ヤマ……ゴメ……うぐっ……ふっ」
良かった……無事だったんだね。
ただ、その可愛い顔は、涙と……でベチョベチョな……うん、やめとこう。
彼女の名誉のためにも。
「お姉ちゃん、誰だよ! コイツの知り合い? だったら言ってやってよ。新入りのクセに少しは手加減しろ、って」
私に向かって、アンナさんとお菓子を巡って口論していた男の子が、駆け寄ってきて言った。
「この人は俺とサリアの恩人だ。親父に会わせるために連れてきた」
リード君がそう言うと、男の子はポカンとした表情で黙り込んだ。
だが、次の瞬間私にしがみついてオイオイ泣いていたアンナさんが、弾かれた様に起き上がるとリード君に向かって駆け寄ろうとした……が、一足先にコルバーニさんに止められた。
「アンナ。私たちの立場を忘れるな」
「先生。説明しましたよね? この兄妹は始末します」
よく見ると、アンナさんの右手に手のひらに隠れるくらいの小さなナイフがあった。
「お前は才はある。が、感情に溺れすぎだ。ここでそれを使ったら私たちは終わり。無論山本りむも、だ」
「……では、許せと」
「考えろ。なぜ山本りむが無事でいる? そしてこの兄妹と共にいる?……ね、リムちゃん。ここでは何だから、広場の隅にでも移ってちっとこのイノシシちゃんに説明してやってくんないかな」
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