アンナさん、妄想する
言われなくてももちろんそのつもりだった。
ここでは何だから、と言うコルバーニさんの言葉で、私たちは広場に隅に移ってここまでのいきさつを説明した。
聞き終わったアンナさんは深々とため息をつくと、私をジトッとした上目遣いで見た。
「少女の言葉でウィトンを思い出し、先生が来るまでお一人で立ち向かわれた……流石ヤマモトさん。素晴らしい機転と勇気。……ただ、それはあまりに危険すぎます。私、お話伺ってる間に白髪が増えました。おばあちゃんにさせる気ですか?」
「……本当にご免なさい。これからはもっと気をつける」
「よろしくお願いします」
俯いてポツリとつぶやくアンナさんを見て、私は急に申し訳なさで一杯になった。
元はと言えば、私の平和ぼけが原因だったんだよね……ごめんね。
そんな事を考えていると、目の前に立っていたアンナさんは、突然地面に伏せて土下座をした。
えっ! 嘘でしょ!?
「えっ! どうしたの!? ねえ、顔上げて」
「そうは行きません。私の力不足でヤマモトさんにあんな辛い思いを……女神のように美しいお顔も傷ついてしまって……この無能な従者にどうか罰を!!」
「い、いやだよ! アンナさんにはいつも感謝してるんだよ」
「いえ! ここはけじめのためにも。さあ! 愚かな従者をお叱りください」
「絶対に嫌だ!」
「いえ! どうか厳しいお叱りを」
そう言いながら、アンナさんは何故か身体を小さく震わせながら小声でつぶやき始めた。
「ヤマモトさんに激しく叱られる……辛いことのはずなのに、何で胸が高鳴っているんだろう。ああ……私は一体……」
「あの……アンナさん?」
「『アンナ! あなたは本当に無能な従者ね。役立たずはこの棒で叩いてあげる』『ヤマモトさん! どうかお許しを……』『あなたみたいな役立たずは身体に覚え込ませないといけないの!』『ああ……! 申し訳ありません』」
まるでお芝居みたいに一人で、アレコレとしゃべっているアンナさんをポカンと見ていると、ハッと我に返ったらしくアンナさんはバツが悪そうに俯いた。
「すいません……お恥ずかしいところを。……ただ、よろしければお叱り頂く時は事前に教えて頂ければ、楽しみ……いえ、心の準備をいたしますので」
「うっし! アッチの世界に行っちゃってるアンナはほっといて、これでこの件はおしまい。でもさ、あの時のアンナ、見せたかったよ。ウィトンだっけ? 哀れな彼を呼びつけて『関係する組織全て壊滅させるからリストを出せ。その後でお前を殺す』って、剣を突きつけて。可哀想に。彼こそおじいちゃんになるんじゃない?」
ニヤニヤしながら話すコルバーニさんを、恥ずかしそうにアンナさんは見た。
「先生……それは……ヤマモトさんの前では」
「もう手遅れじゃん。さて! じゃあリムちゃんとも再会できたし、私たちのお仕事にちっと付き合ってもらおうかな。……で、その右腕のドクロのブレスレットどしたの? メチャ趣味が悪いんだけど。そっか……監禁されたときに、呪いのアイテムでも着けられたか」
「い、いや……それは」
「ヤバいくらい似合ってないから、捨てた方がいいって。あ、そっか。呪われてたら外せないか……アンナ、お前も同じ物を着けているがさっきの気味悪い一人芝居も呪いのせいか?」
コルバーニさんの言葉に、アンナさんは世にも不機嫌そうに目を細め、口元はへの字を書いたようになっていた。
わ……これ、怒ってる?
「……わたしには分かりかねます」
「ふん、そうか。リムちゃんは体調大丈夫? うん、ならいいけど。ふむ。じゃあなんでアンナが『孤児院に入った薄幸の美少女』の振りしてここにいるかを説明するね」
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