アンナさん、キレる(前編)

「アンナさん! どうしてここが……」


 ああ、嬉しくてものすごい笑顔になっちゃう。

何て言うか……顔がくしゃくしゃになっちゃうような、年頃の女子にあるまじき顔というか。


「ヤマモトさん、遅くなりました。さぞ怖い思いもされたでしょうに、本当に申し訳ありません。ですがもう大丈夫です」


 アンナさんはそう言って、膝を突くと深々と頭を下げる。


「全く、どっちが師匠か分からんな」


 そう笑顔でつぶやいたコルバーニさんは、表情を引き締めるとアンナさんに言った。


「アンナ。持ってきたか? 港を出る前にこの船を制圧したい」


「はい。私と先生の分を」


「ご苦労。では……と、最近つくづく私は最後までしゃべらせてもらえぬようだな。悪の親玉が来たかな?」


 コルバーニさんがそう言うやいなや、また上の扉がガタンと開いて2人の男性が降りてきた。

先頭にいるのは、何故か上半身裸のボディビルダーみたいなゴツい男性。

その後に続いてニヤニヤとした笑みで降りてきたのは、健康診断を受けたらメタボ判定間違い無しのデップリ太った男の人だった。


 メタボさんは品定めをするかのように、船内を見回すと……私をじっと見た!!

嘘でしょ!!

慌てて目を逸らすも、メタボさんは真っ直ぐ私に近づき目の前に立って言った。


「この女いいな。気に入った。よくは分からんが不思議な匂いがする。他の女どもとは違うな」


 え……お風呂はちゃんと入ってるのに……ショック。


「見た目は……中の中と言うところだが、たまには悪くない。少し早いが決めた。まずはこの女を買おう。来い」


 そう言うと、メタボさんは私の手を引き立ち上がらせると、そのままお姫様抱っこの格好で抱え上げた!

え? えっ?

混乱している私の胸元に、メタボさんの手がそのまま……って、嫌だ! うそ!


 私は目を閉じて悲鳴を上げようとしたが、その前にメタボさんのスルスルと迫っていた手が止まった。


 な、何??


 ドキドキしながら薄く目を開けると、メタボさんの前に鬼瓦のような表情のアンナさんが立っていた。


「汚いゴミ虫がヤマモトさんの美しい身体に触れるな。穢れる。すぐに降ろし、土下座して詫びなさい」


「ああ? どけよ、クソガキ。って言うか……お前いま何て言った?」


「あら? 虫けらは人の言葉を理解しないようですね。もう一度言います。今すぐ……ヤマモトさんを降ろしなさい」


「おいジョセフ! このしょんべん臭いガキをすぐ海に放り込め! ガキ、間違うな。この女は俺の物だ」


「違います! ヤマモトさんは私の物です!……じゃなくて……えっと……た、大変な暴言……お許しを……」


 い、いや……それはいいけど……コルバーニさんだけじゃないんだ……


「まずはてめえの処理からだな」


 メタボさんは舌打ちをすると、今度は私を乱暴に投げ落とした。

痛い!

私は右腕を打って思わず悲鳴を上げた……次の瞬間、アンナさんは抱えていたウサギのぬいぐるみの首を……もぎ取った!!


 そして、次の瞬間メタボさんの肩から血が噴き出した。

アンナさんの手にはウサギのぬいぐるみの首……そしてその先には鈍く光る刃があった。

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