2人の内緒の取り引き
「さて、準備準備っと」
「おい、亜里沙! さっきの男と何を内緒話してたんだ。怒らないからお父さんにいいなさい! しかも……そんなふしだらな格好で!」
「もう怒ってるじゃん。大した事言ってないよ。『お兄ちゃんが勝ったら、明日ビキニアーマーでデートしてあげる』『5分以内で勝ったらプラス私を肩車させてあげる』『4分以内で勝ったらお姫様抱っこもプラス』『3分以内なら……』これは言うのやめよ。お父さんヒステリー起こすから」
「さすが先生、大盤振る舞いですね。それであのハゲ男、馬鹿みたいに張り切ってたんですか」
ニヤリと笑いながら話すアンナさんにコルバーニさんは笑顔で返した。
「まあな。相手が本気で来ないとアピールにならん。手を抜かれたから勝てたんだ、などと思われてはコルバーニ流の恥だしな。それにエンターテインメント性があるほど、勝った時の印象も強い。さっきの条件は証人になってもらうため、周囲のギャラリーに書面としてクロノのオッサンが配ってる。ああ喜べアンナ。お前もその条件に入ってる。相手は隣で鎖鎌を持っている毛むくじゃらだ」
「……へ?」
「あの毛むくじゃら、私にこっそり提案してきてな。どうやらお前がずっと気になってたらしい。せっかくのご指名だ。お前も退屈してるだろうと思い、名を売るチャンスでもあるので了承した。どうだ、弟子思いの師匠だろう? 尊敬していいぞ」
「あの……先生。それって負けたら私がアイツと……さっきの条件を?」
「当然だ」
「私、ビキニアーマーなど着たことないのですが……」
「お? そうか。案外いいかも知れんぞ。お前、私よりも……あるし……ちっ。ああ、それとキャンセルは無しだ。せっかくの生贄を逃すわけにはいかんからな。……おおっと、毛むくじゃらかなりやる気だな。もう出てきたぞ。うっしアンナ! 瞬殺してこい。そうすればハゲ男も本気になるだろうから、楽しくなる」
「……嫌です。断固拒否します。先生」
ジト目で言うアンナさんにコルバーニさんはキョトンとした表情で言った。
「なに、尊敬しないのか? しかも断るだと! 『あの子もすっごいやる気になってるよ』って言っちゃっただろうが。私に2度戦わせる気か。疲れる!」
「お忘れですか? 人工呼吸とは言え、ヤマモトさんと……き、キス……ええ! ぜひ奴等とビキニアーマーでのデート楽しんでください。私は相手などお断りです。そもそもあんな汚そうな身なりの男と戦うのは不快です。男は基本苦手なので」
「もちろん大丈夫です、アンナ殿。じゃあ亜里沙、お前はお父さんが代わりに断ってあげるからね。心配するな、ついでにあの虫けら達の首をへし折って来てあげるから」
「なに勝手に私も断ろうとしてんの? ってか、お父さんじゃ向こうの方が断るよ。私とアンナみたいな美少女でないとエサになんないんだからさ」
「お、お前はエサなんかじゃ……!」
「はいはい、ゴメンね。とにかくここは任せて」
「あ、あの……アンナさん大丈夫? コルバーニさんもそんな、アンナさんの意思も聞かずに酷いよ。そりゃアンナさんだって怖いに決まってる。勝手に条件まで決められて……」
そこまで言った私に、アンナさんは突然ハッと何かに気付いたように目を見開いて「条件……そうか! 私って冴えてる」と呟くと、私にチラチラと目配せしてきた。
ん? なに?
きょとんとしながらアンナさんを見ると……アンナさんがおずおずと私に近づいてきて、広間の隅に引っ張るとコソコソとした様子で耳打ちしてきた。
「あの……ヤマモトさん。私……この勝負、とっても怖いです。怖くて怖くて泣きそうです。ああ怖い」
アンナさんは棒読み丸出しな感じでひそひそと耳打ちしてきた。
それから私とアンナさんはお互いひそひそ耳打ちしあった。
「そ、そうだよね。無理しなくていいよ。コルバーニさんなら二人くらい余裕だよ」
「で、でもですね。あの……その……ひょっとしたら頑張れるかも」
「え? そうなの? 本当に大丈夫なの」
「あ、ただ……1人では無理です。その……」
そう言うとアンナさんは恥ずかしそうにうつむいてモジモジし始めた。
「よっしゃ、アンナはん。リムはんに言うの恥ずかしかったら、うちに言うのはいかが? どんな内容でもオッケー」
「黙れ指輪。お前は大声で言いかねん。……えっとですね、ヤマモトさん……奴に勝ったら……私と2人でお出かけしてください」
「え!? お出かけ?」
「は、はい。デ……デート!……です」
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