私と戦って!

 コルバーニさんは、両手を胸の前で合わせながらモジモジし始めた。

 あ……これ、カーレで見たやつかも。

 服をノースリーブと超ミニスカートみたいに短く切り、胸元も過激としか言いようがない開き方をしているため、ある意味前回よりも何と言うか……うん。


「あのね、お兄ちゃん。ちょっとお願いを聞いて欲しいんだけどいいかな?」


「なんだい。人探しだったら手伝ってやらんでもないよ。大丈夫。お兄ちゃんに全部任せな」


「有難う! でもね、そうじゃないの」


 スキンヘッドさんは怪訝な表情になった。


「じゃあなんだい?」


「私と戦って」


「はあ!?」


 スキンヘッドさんはイカを釣ろうとしたらフグが釣れちゃった時のお父さんみたいな驚きとも呆れとも着かない表情を浮かべた。


「ね、お願い。パパを探すのにずっとお稽古頑張ったんだ。で、誰か頼もしい人に連れてってもらおうとしたんだけど、相手にしてくれないの。だからお役に立てるってみんなに信じて欲しくて。私アリサって言うの。アリサの一生のお願い!」


「あのなぁお譲ちゃん。お兄ちゃんたちはね、忙しいんだ。おままごとならそっちのお友達とやってな。それか、他の目的なら連れてってやってもいいけど」


 からかうようにスキンヘッドさんが言うと、後ろの2人もコルバーニさんに向かって下品な笑い声をあげた。

 ぬぬぬ、なんつうセクハラ!!


 けど、コルバーニさんは気にも留めずにスキンヘッドさんの袖に身体を寄せると瞳を潤ませながら見上げた。


「おねがい。もしおにいちゃんが勝ったらアリサね……」


 コルバーニさんはスキンヘッドさんの耳元に口を近づけると、何やらごにょごにょと耳打ちした。

 すると、スキンヘッドさんの表情が一気に真剣になった。

 それからお互い何度かごにょごにょ耳打ちしてた後に、スキンヘッドさんは腕組みをして重々しい調子で言った。


「じゃあ、1回だけな」


「はあ!? アレク、お前馬鹿なの! 1時間後にはでかい依頼あんだぞ。あの『狂乱の花嫁』のやつ」


「う、うるせえな! こういう純真無垢な美少女は大事にしてやらないといけないんだよ! 大人の務めだ」

 

 コルバーニさん、何言ったの? って言うか、後ろのガリアさんからものすごい負のオーラが漂ってきてるんだけど、後でどう説明するんだろ……

 そんな私たちの不安など露知らず、さらにコルバーニさんは隣の毛むくじゃらの男性とも何やら話している。


「はぁ~『純真無垢な美少女』ね。リムはん。うち、指輪におるからかな? 純真無垢なんてどこにも見えへんのやけど」


「きゃあ! やったあ! お兄ちゃん大好き」


 コルバーニさんはそう言ってスキンヘッドさんに抱きついた。

 あらら、分かりやすく顔真っ赤にしてる。

 コルバーニさん50歳なんだけど……


「でも悪いな。お兄ちゃんはいいお部屋を取ってないんだ。だから来週まで……」


「大丈夫! そこの多目的ホール予約してあるから」


「は?」


 はあ!?

 い、いつの間に!?


「コルバーニめ、最初から全部仕組んでたな。あの若年よ……ごほん」


「クロノどの。今、何と言いかけましたかな? 若年寄と聞こえた気がするが気のせいですかな? しかし亜里沙のやつ、そんなに『狂乱の花嫁』が気にかかるか」


「でしょうね。あれ、たぶんクローディアの事だろうから」


「え? リーゼさん! だったら、こんな回りくどい事しなくても、あのスキンヘッドさんたちについてけば……」


「ダメよ、それじゃあ私たちが主導権をとれない。選べない。絶対的に信頼できて、私たちの足を引っ張らない。それでいて『狂乱の花嫁』の依頼を受けている人を選ばないといけないでしょ。あの男たちはダメね。ただ、デモンストレーションには最適だけど。ロリコンだしね。ほんと、ろくでもない年増おばさんね」


 ええ……そんなものなのかな。


「さすがコルバーニはん。性格はほんま悪いけど、中々考えよるなぁ。あ、リムはんは見習わんでええよ」


 そんな事を話していると、ご機嫌な様子でコルバーニさんが戻ってきた。

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