フィーゴ公爵の招待状(1)

 フィーゴ公爵の言葉を聞きながら、私はこうなったいきさつをボンヤリと思い出していた。 それは、さかのぼる事2週間前。

 

 コルバーニさんの突然の失踪。

 その衝撃が覚めやらぬまま、私たちは宿の食堂で話し合っていた。

 クロノさんが言うには、きっとコルバーニさんは陸路を使っているだろうと言うのだ。


「アイツのことだ。我らが海路で探していると踏んでいるはずだ。こんな所でボンヤリしてる場合では無いだろう。早急に合流するぞ」


「う、うん、そうだね。絶対、見つけよう!」


 私がそう言ってみんなを見回した時。

 アンナさんがおずおずと言った。


「ヤマモトさん、その……思うんですが、私たちは先生を探すべきなのでしょうか」


「え?」


 私はアンナさんの言うことが理解できずに、目をぱちくりさせた。


「そ、そりゃ……探すに決まってるじゃん! 仲間だよ」


「悪いが俺もアンナ先輩に一票だ」


「オリビエまで……何で」


「リムちゃん、誤解しないで欲しいんだ。俺とアンナ先輩は決して先生を見限ったわけじゃない。逆だ」


「逆って、何? 分かんないよ!」


「知っての通り、先生はあまりに沢山の物を背負ってきた人だ。そして、決して無責任な人じゃ無い。逆に生真面目な程に物事に向き合う。そんなあの人が、この行動に出るにはよほどの葛藤があったと思うぜ。それこそ押しつぶされそうなほど」


「オリビエの言うとおりです、ヤマモトさん。私が先生だったら、今生の別れのつもりで覚悟を決めての出立にします。先生は……心の底から、戦いを捨てたいのでしょう。普通の人生を生きたいのでしょう。そんな先生を無理矢理引き戻すなど、私にはできません」


「それはどうかな。コルバーニは手紙を残した。剣も残した。捨てもせずに。奴が逃げたいと思っていることも事実だが、それと共に探して欲しがっているのでは無いか? よく分からんが、奴はただ捨てたいのではなく、何かを見つけたがっている。恐らく……絶対的な愛情」


「おいおい、オッサン。先生が愛情を求めてる? 手紙にはそんなの一言もなかったぞ。その意見、何の根拠がある?」


「……それは言えん。だが、根拠はある」


「言えないのであれば、その意見聞くことは出来ん。ヤマモトさん、私とオリビエは『先生にはご自分の望む人生を送っていただく』です。戦力ダウンは埋めがたいほどですが、私とオリビエでカバーします。ユーリの元へ行きましょう」


「私は『コルバーニを追うべき』だ。仲間1人も救えず何が世界を救う、だ。奴を救えるのはお前だ。ヤマモト」


 それと共に、3人がじっと私を見た。

 え……これって、私に最終決定権がある! て奴?   

 とは言え、私の答えは一つだ……そう!

 私はみんなの顔を見ると言った。


「おじいちゃんの所に向かおう! でも……みんなでコルバーニさんの通るであろうルートを考える! そしてそこを通っていく。遠回りでも構わない。アンナさん、オリビエ。私もコルバーニさんを無理に戻したいとは思わない。でも、話を聞きたい。その上で旅を止めた! って言うなら……2人の言うとおりにする。最後にごめんなさい、って頭を下げて」

 

 こうして私たちはおじいちゃんが居るであろう街、アルバードに向かった。

 ただ、その前にコルバーニさんが立ち寄るであろう場所をアンナさんが教えてくれた。


「先生は言ってました『昔、ドーレと言うとても大きな街で生まれて初めて仕事をした。ウェイトレスだったが楽しかった』と。恐らくそこに言っている可能性が高いかと。そこなら先生も身を隠し、何らかの仕事も見つけられるでしょうし」


「よし! じゃあそこに行こう。……で、ゴメンねみんな。結局どっちつかずの結論で」


「大丈夫だ、リムちゃん。それが君らしい。リムちゃんがリーダーなんだから、自分が正しいと思う方向に引っ張ってくれよ」


 オリビエの言葉にアンナさんもクロノさんも頷く。

 うう……ありがと。


 そして、私たちは馬車と御者さんを調達し一路ドーレへ向かった。

 道中、どんなモンスターに襲われるかとヒヤヒヤしてたけど、いざ蓋を開けるとオリビエとアンナさんの敵では無かった。

 いわゆる「瞬殺」ってやつ?


「お待たせしましたヤマモトさん。ここがドーレの街です」


 町外れの停留所のような所に馬車を停めて、御者さんに別れを告げた私たちはドーレの街をしみじみ眺めた。

 ラウタロ国の神秘的だけど、どこか怪しく陰鬱な空気が嘘のように街の内部からエネルギーが漏れ出してきてるかのようだった。


「ここはラウタロ国でも屈指の商業都市らしい。そのため、かなり大規模な発展を遂げているらしいな」


 クロノさんが大通りを見回しながら言う。

 大通りには両側に所狭しと様々な店や屋台が並んでおり、それは食べ物や衣料品、雑貨屋さんを初めとして何かの黒魔術に使いそうな怪しげな物が並んでたり、様々な本が置いてあったりもしている。

 いや、それよりもとにかく……


「う、うるさ~い」


 そう。

 アチコチからまるでマグロの初競りみたいな威勢のいいかけ声が聞こえてきて、頭がキンキンする……


「ヤマモトさん、大丈夫ですか?」


「あんまり……」


「ああ……なんとおいたわしや。露天商の誰か1人血祭りに上げて静かにさせましょうか」


「やってもいいが、我らは無関係とさせてくれ……っと、アンナ・ターニアはどこに行った!」


「オッサン。先輩はあそこの露店にいるよ」

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