先立つものはやっぱりお金

*今回のエピソードの舞台である「ロッドベリー市」と一部登場人物や名称は、田舎師様の著作「凡才少女は勇者の夢を見るか」よりご使用の許可頂きました。

本当に有り難う御座いますm(_ _)m

もし何か至らぬ点あればぜひ御指摘いただければと。


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イスマール侯国北方の中核都市、ロッドベリー市。

 クローディアを追ってラウタロ国を一旦出た私たちは、船に1日乗った後にこの国に着いた。

 ロッドベリー砦に守られて、モンスターや盗賊などの脅威から無縁となったこの都市は、見上げるほどの高さを持つ建物が建ち並び、その間を人と店、それに民家が埋め尽くしていた。

 この世界に来てから色んな街や国を見てきたけど、その規模や人口密度は比較しようが無いくらいだ。

 何というか………小学生の頃に家族で旅行したマドリードやバルセロナを連想させるような、都市自体が1つの生き物のような息づかいを感じさせる。


 その息遣いと熱気の大きな要因は、勇者の存在だろう。

 初めて来た私が見ても、勇者への街の人達の対応は暖かさと尊敬に満ちていた。

 もちろん、中には悪さをして手配書にでている人もいるけど、それはどの世界もそうだよね……


 そのため、私の中のロッドベリーの街の勇者へのイメージは「警察官」になった。


 そして、建物のデザインも目を引いた。

 外壁に赤や青、緑のガラスの破片がアチコチに埋め込めまれており、屋根が螺旋になっていたり角の無いほぼ曲線のみで構成された形だったりと、その造形はまるで異世界だった。

 

 特に中央広場から西に向かったところにある闘技場は、人気のエンターテイメントとの事で、波や砂浜を連想させるうねりを持った、自然の造形美を感じさせる優雅さと美しさを併せ持っていた。


「うわあ……うわあ……」


「リムちゃん、さっきからポカンとしてるね。よっぽど気に入ったんだ」


 コルバーニさんの言葉に私は興奮を隠すことが出来ず、ブンブンと首を縦に振った。


「すっごく気に入っちゃった! だってこんな立派な都市、見たこと無いよ! 立っているだけでエネルギーもらっちゃう」


「そりゃ良かった。このロッドベリーは今までの私たちがいた国とは違う面が一杯あるんだよ。まずさっきリムちゃんが警察官みたいだ、と言ってた『勇者』「勇者補佐」と言う概念」


「へ? 勇者って、国を救ったりして自然に呼ばれるんじゃないの?」


「うん、ちっと違うんだな。この国で言う『勇者』と言うのは、それにふさわしい能力や実績を示した人物に与えられる称号なんだけど、それを受けると、この地域で宿泊や食事、装備品をもらえたり割引が効く。他にも有力者に謁見できたり、各種施設を使用できたりと言った恩恵も」


「そうなの!? さすが勇者……凄いじゃない」


「それがね……かと言って、それで左うちわかというと甘くない。市からもらうお給料は、百日ごとに三十万ペタ。宿泊や食事の割引はあってもそれだけでの生活は無理。だから、ほとんどの勇者はそれだけじゃ食べていけずに、他の仕事をしてるんだ。例えば、酒場のウェイトレスや工事現場、ドブさらいとか。それで鶏口をしのぎながら、庁舎の行政府で魔物退治なんかの仕事を探す」


「なんか……世知辛いね。まるでスポーツ選手とか作家さんみたい……」


「そうだね、概念としてはそれが近いかも。まあでも、勇者になりたい人は後を絶たない。何せ『世のため人のため』を確実に体現できるし、好きな道で食べていけるチャンスを掴んでるんだからね。しかも自分の住む街を守る仕事。それは名誉な事だよね。まして勇者の中でも飛び抜けた実績を上げたものは侯国勇者となれて、そこまで登るともう勇者専業でやっていける。それどころか名士扱いだよ。……そして私達も別の意味で勇者と関わる必要がある」


「あ……」


 そう。

 私たちはそんなキラキラした希望とは別の理由で、勇者の立場を得る必要があった。

 クロノさんが疲労困憊と言った感じでつぶやく。


「さしあたって後5日だな。そこを超えると我らは晴れて物乞いだ」


 そう。

 私たちはお金が無い。

 今まではコルバーニさんの路銀とオリビエの持っているお金で何とかなっていたのだけど、オリビエは王城の方でのっぴきならないトラブルがあったようで、私とクロノさんやジャック君が離ればなれになった後で、別行動となったのだ。

 それに加えて、この船旅は結構な出費となった。


「うち、物乞い嫌やわあ……イメージとしては、深窓の令嬢なんよ」


「あなた顔しか出てないじゃん」


「リムはん、イケずやわぁ」


「でも、本当に何とかしないと、ヤマモトさんを物乞いなどと……ああ、神様!」


「そうだな。まずは懐事情を何とか……と、コイツをどうするかな」


 そう言ってコルバーニさんは、私の後ろに立っている人……リーゼさんを睨み付けた。


「何よ、アリサ。さっきから親の敵みたいに睨んで。今は休戦中よ」


「信じられるか。そもそもなぜ着いてきた?」


「勘違いしないで、私は私の目的があるの。それに……」


 そう言うとリーゼさんは私を恥ずかしそうに見た。


「おい、リーゼ。なぜリムちゃんを見る? 言っとくが、あのキスは人工呼吸だからな! リムちゃんはなんらお前なんかに特別な感情は無い」


「うるさいわねアリサ。アンタには関係ない。……リム・ヤマモト、責任は取ってもらうからね」


「へ? 責任って……」


「決まってるでしょ! 私、初めてのキスだったの。しかも……胸まで。どっちも一生添い遂げる相手と……と子供の頃に決めてたの! それを……か、感謝はしてるけど、責任はとってもらう」


「ふざけるな貴様。リムちゃんはお前なんかに興味無い。子供じゃあるまいし、何が『初めての……』だ」


 コルバーニさんの言葉にリーゼさんはケタケタ笑い出した。


「この浮気者! とか半泣きで叫んでたクソガキに言われたくないわ」


「面白い、じゃあ白黒付けようか……この場で」


「あほくさ。私はあなたなんかに構ってる暇ないの」


「あ、あの! まずはお金をなんとか……するんでしょ」


 二人の果てしない言い合いに、思わず大きな声出ちゃった……

 

「あ、そうだった……ゴメンねリムちゃん。さて、まずは行政府に行ってみる? 何かお仕事紹介してくれるかも。せっかくだから、冒険して路銀を得たいよね」


「ああ『勇者補佐』を狙うという訳か」


「そんなに甘くないでしょ? あっさり部外者が補佐にあれたらみんな苦労しないよ。お父さん」


「じゃあどうしようもないだろ。我らを向こうから欲しがるようにするしか無いが、それこそぽっと出では難しい」


 ガリアさんの言葉にコルバーニさんはニヤリと不適な笑みを浮かべた。


「そこは……ね。やりようはあるのさ。おっ! 行けない。あれやっとかないと……先に庁舎に行っとくから合流して!」

 

 そう言うとコルバーニさんは鉄砲弾みたいに走り出した。

 『先に』って……何しに行ったんだろ?


 都市の中心近くにある庁舎。

 一際美しく、荘厳ささえ感じさせる真白な壁と、鮮やかな色合いのガラスタイルで構成された建物の中に勇者の活動を支援する窓口がある。


 と、言っても私たち勇者じゃないんだけどね……

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