クローディアを探して

「……で、先生。ヤマモトさんとキス、とは……説明を所望します」


「む、アンナよ。そんな事言ったっけ?」


「はい。この耳に焼印のごとく刻まれました。ああ、ヤマモトさんもぜひご説明を」


 切り株に座ってスープを飲みながら、ジト目……と言うより、目が据わっているという感じで私とコルバーニさんを見ているアンナさんをどう説得しようか脳内、まるで盆踊り会場のように混乱しきっていた。


 だって! 片手でスープ。もう片手でナイフを持って自分の喉もとに当ててるんだよ!?


「あんなあ、アンナはん。これはな……あ! 今のダジャレやないんよ。うち、そんなセンスの無い……」


「黙れ、指輪」


「リムはん、この子怖いわぁ……」


「そうですね、アンナさん。我々は聞く権利がある」


 その隣にはガリアさんが同じく切り株に座って、さすがにナイフは当ててないけど、まるで処刑を待つ罪人のような……って、見たこと無いけど。

 私とコルバーニさんはチラッと目を合わせると、微かにコルバーニさんが頷いた。

 そして、もったいぶった咳払いをして話し始めた。


「言うまいと思ってたがやむを得ん。実は……私とリムちゃんは緊急時の訓練も行っていたのだ」


「……訓練?」


「そうだ。リムちゃんはリーダー。そんなリムちゃんにしか出来無い事はある。さっきの人工呼吸、あれがそれだ!」


 ドヤ顔で心なしか胸を張って言うコルバーニさんにガリアさんが冷ややかに返した。


「ほう……だが亜里沙。お前さっき『この浮気者!』と言ってたな。人工呼吸が浮気になるのか?」


「もちろん。あの人工呼吸はまだ未完成。『完成するまでは私たちだけの秘密ね』と話していた。それを私の許可も得ず勝手に使って……この……浮気者! と言う次第だ。人工呼吸とは言えキスも頑張ったんだぞ、ね! リムちゃん」


「う、うん! そうだよ。2人でもしもの時のために人工呼吸の練習やってたんだ。黙っててゴメンね」


「そ、そうなん……ですか?」


 アンナさんが上目遣いで私の方を見つめる。

 やった、いつものアンナさんの目だ!


「しかし、亜里沙……」


「わあ、やった! お父さんも信じてくれるんだね。亜里沙嬉しいな! じゃあ後で親子水入らずでゆっくりお話しよ……ね?」


 コルバーニさんの……何と言うか物凄い目つきにガリアさんは目を逸らして頷いた。


「そうだよ、アンナさん! ハッキリ伝わらなくてごめんね。だから大丈夫だよ」


「なんだ! ビックリしましたよ。ヤマモトさんも先生ももっと言い方に気をつけて下さいよ〜」


 先程の氷のような殺気が消え去り、ホッと胸をなでおろした。

 あ〜びっくりした。


「さて、アンナとお父さんも納得してくれた所で、これからの話に移ろうか」


「え? でも……エルジアさんに会いに行くのは聞いてたけど、まずクローディアさん……だっけ? コルバーニさんの大切な友達。その人を探すのが優先じゃないの」


 私がそう言うと、コルバーニさんは深々とため息をついた。


「それなんだけどさ……そのエルジアから手紙が届いて、それによるとクローディア、何でなのか全く分からないんだけど、お父さんにちょっと別行動して調べてもらった所、どうもラウタロ国の外に出ちゃったらしいんだ」


「え! この国の外!? 何で……」


「分からない。クローディアのお父さんはすでに保護してるけど、彼女は自分の意志で国外に出たらしい。なんか男性の手引きらしいけどさ」


「男性」と言った時だけ、わずかに不満そうな顔をしたコルバーニさんを見て、胸の奥がちょっと疼いたのが妙に気になった……って、何で気になるのかな……

 そんな私の不思議な心境などお構いなしにコルバーニさんは続けた。


「で、彼女が向かったのは……お父さん、どこだっけ?」


「イスマール侯国の中核都市であるロッドベリー市。彼女はそこにいるらしいのです。ただ……」


「ただ? 何なんですか」


 ガリアさんとコルバーニさんは何かを我慢しているような表情で顔を見合わせ、コルバーニさんがポツリと言った。


「クローディアは確かに国外に逃げた。でも、その理由が自分への追手3人を、修道院の中で斬り殺したため、国から追われたから……らしい。そう、彼女はお尋ね者になっちゃったの」


「私も自分の情報のエラーかと思った。だが違ってた」


「私の知ってるクローディアは剣はてんで下手っぴな娘だった。少なくとも公爵の追手を3人も切り殺せる腕ではない。……だから、ちっとばかり早く行きたいんだよね。ロッドベリー市へ」

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