マタニティ・ブルー
「ふっ……ふぐっ……ヤマ……うええ……よ、よか……ふああん!」
「ごめんね、アンナさん。心配かけちゃったね」
「おけ……ぐすっ……ケ……うう……ない……あああん!」
「うん、ケガは無いよ。アンナさんこそ大丈夫?」
「だ……ぶ……ふぐっ……ううう……」
「ホント? 良かった」
「凄いなリムはん。あんた、未知の言語を理解しはる能力もあるんやね。うち、アンナはんが何言ってはるか1ミリもわからへん」
「ふむ、まあ何はともあれ良かったよ。リムちゃんにケガが無くてさ。過去イチ心配したんだからね。何せちっとばかしヤバい状態だったからさ……で、ライムから大体の事とエルジアに会えという事は聞いたものの……これはなんだろね?」
コルバーニさんはそう言って、指輪から写し出されているラームと私の後ろに立っているリーゼさんを見た。
「初めまして……ってのも妙な感じやね。アリサ・コルバーニはん、うちはラーム。ライムはんによってリムはんを導いてやってと頼まれたんよ。リムはんの親友件アドバイザーやね」
「……なるほど。石の件のフォローって訳か。ライムも相変わらずね。で、リーゼ。あなたは何なの?」
「私は飛行船からリム・ヤマモトを救い出したの。それであなたたちの元に引き渡してやって欲しいと頼まれたから連れてきただけ……のはずだったんだけど事情が変わったわ」
その言葉を言った途端、コルバーニさんとアンナさんが剣を抜きリーゼさんに向けた。
見ると、ガリアさんもさりげなくリーゼさんの背後に着いている。
その横にはクロノさんが悠然と立っていた……って、あなたはかえって足引っ張ると思うんだけど!
「事情というのはなんだろね? この人数を相手に出来るならぜひ答えてもらおうかな。リーゼ」
コルバーニさんの射るような視線を悠然と受け止めながらリーゼさんは言った。
「当然話すわ。だって私、リム・ヤマモトとの間に赤ちゃんが出来るんだもの」
※
場が凍り付く。と言う言葉があるけど、この時ほど実感したことは……ない。
あと「開いた口がふさがらない」も。
文字通り、場のみんながポカンと口を開けていた……ただ、1人を除いて。
「き……きき……きさ……切る!」
アンナさんが文字通り飛びかかろうとするのを、コルバーニさんが羽交い締めにしながら言った。
「どうどう、アンナ。落ち着け。と、言っても私も実は結構テンパってるんだけどね。さて、こっからはリーゼもだけど……リムちゃんからも事情を聞きたいんだけどね~。もちろんいいよね?」
そう言ってコルバーニさんは唇を尖らせながら私をジト目で見た。
え? コルバーニさんも……怒ってる!?
「シンプルよ。リム・ヤマモトが倒れている私の胸を触ってキスをした。そのためコウノトリが私たちの赤ちゃんを連れてくる。だから2人で育てないと行けない。これ以上説明しようがある?」
「……なっ!」
え? ええええっ!?
コルバーニさんまで顔を赤くしてワナワナ震えだした。
「ヤ、ヤ、ヤマモト……さん。嘘ですよね。嘘だと言ってくださいぃ!」
「ご愁傷様アンナはん。嘘やないでぇ。うち、指輪からその様子見てたもん。あら~お二人アッチッチやな~って思うてたもん」
「ちょっ! ラーム、お馬鹿!」
「嘘言うてないやろ」
「もっと詳細を! 端折りすぎでしょ! リーゼさんもそう!」
「……ふ、ふふ……うふふ……」
へ?
突然アンナさんが顔を下に向けたまま笑い出した。
な、なに?
「い、いかん……」
なぜかクロノさんが引きつった表情で後ずさりしだした。
え? なに?
ポカンとしていると、アンナさんが急に私の目の前に来てエラそうに言った。
「リ、リ、リム・ヤマモト……さん! 実は私がリーゼだったんです。さぁ! 私たちの赤ちゃんを育てましょ!」
「へ?」
「このチンチクリン、頭おかしくなったの? リーゼは私でしょ」
「うふふ……大丈夫です。リム・ヤマモトさん以外全員亡き者にすれば、誰も疑うものは無し。その瞬間から私がリーゼ。さあ、ヤマモトさん。一緒に愛のための戦いを……ふふふ」
「あの……アンナさんってそういう人だっけ?」
「リムちゃん、残念ながらそういう人だコイツは。おい、アンナ。その『全員』と言うのは私とお父さんも含まれてるのか? いい度胸だな貴様」
「すいません先生……じゃなくて、アリサ。ヤマモトさ……じゃない、リム・ヤマモトさんを手に入れるためなら、地獄にでも」
「ほほう、では師匠の私が地獄に落としてやる。だがその前に……リムちゃん!」
コルバーニさんの突然の大きな声に、ビックリして思わず背筋を伸ばしてしまった。
「は、はいい!」
コルバーニさんは赤い顔で私をキッとにらみつけると、ワナワナと身体を震わせながら言った。
「ひ、ひどいよ! 私……リムちゃんが初めてだったんだからね! ……キ、キス頑張ったのに………あんなおばさんと……この浮気者!」
「はああ? アリサ! 50超えたおばさんに言われたくないわよ!」
「見た目は13歳だもん!」
「亜里沙、今言った事は本当か! キ、キスだと……お父さんは許した覚えないぞ!」
「お父さん、私もう50歳なの! 大人だよ」
「せ、先生……キスって……詳しくお話を……」
「おい、ヤマモト。全部お前のせいだ。どうするんだ、この修羅場は」
え、えっと……
「あ、言うの忘れとった。ちなみにリーゼはんの言ってる胸触ったとかキスした言うのは全部『人工呼吸』の手法の事な。停まった心臓よみがえらせる技術。もちろん赤ちゃんなんて出来んよ。言うの遅れて堪忍な」
そのラームの言葉で再度場が静まり返った。
その隙に私は猛然と早口で、人工呼吸とコウノトリはやってこない事を説明し、そこからの空気は……まるで遭難した雪山のようだった。
そして、気絶していたアンナさんが目覚めるまで1時間はかかっていた……とほ。
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