弱く儚い者たち

「よろしくお願いします。ヤマモトさん。私もぜひ引っ張ってください。あなたの望むことであれば、どうかこの身をご自由に……って、ああ! なぜか胸がドキドキする! 邪念よ去れ!」


「ふむ……アンナ、お前が言う全てに邪念を感じるぞ」


 難しい表情でつぶやくコルバーニさんをアンナさんはジトッとした目で見た。


「先生こそ、この期に乗じてヤマモトさんを物にしようなどと言う不埒ふらちな考えは許されません。ヤマモトさんは誰の物でもありません」


「お前『ヤマモトさんは私の物です』って言ってただろうが」


「はて? そのような言葉記憶にございません。きっと別の誰かが言ってたのでしょう」


「そうか。お前が言ってないのなら、山本リムは今から私の物だ。決まり」


「……先生、ここでは皆様のご迷惑なので、外にて」


「アンナ先輩、剣を持たないでください。って言うか、リムちゃん。アンナ先輩いつからキャラ変わったんだ?」


「ありがとみんな。じゃあ、早速チームの名前決めよう! せっかくだからみんなが気に入ってくれるチーム名がいいな。ブライエさんやライムにも胸張って言えるような……よし! チーム『半分こ』はどうかな! いいと思わない?」


 少しの間、医務室の中を沈黙が包んだけど、ややあってアンナさんが自白しようとする犯罪者さんの様な口調で言った。


「あの……ヤマモトさん。大変言いにくいのですが……その名前……ダサ……」


「え、だめかな? 頑張って考えたんだけど……ゴメンね」


「……は、はて? な、何のことでしょう。そのチーム名、心から感動しました、と言いたかったのですが! さすがヤマモトさん。まるで宝石のごとき言葉!」


「ほんと! やった、嬉しい!! 気に入ってくれるかドキドキしてたんだ」


「ヤマモトさんのつけたそのチーム名。運命を感じました」


「アンナ先輩……正気ですか? 俺は……ちょっと」


「オリビエも同意したようですので、このときより我らは『チーム半分こ』とても……はい、良き名……です……」


「うん。私も気に入っちゃった! バッチグーな名前じゃない。本当は少女探偵団が良かったけど、オリビエとクロノもいるしね」


「どっちに行っても地獄か……」


「じゃあ、みんなで誓いの乾杯しようよ! もうお別れなんて言っちゃダメ! チーム半分この決まりその1『勝手にチームから離れない! みんなで頑張る!』」


 そう言った私の前に、そっとグラスが置かれた。

 驚いて見上げると、クロノさんが無表情で立っていた。


「人は弱く儚い。だが強く気高い。自らの弱さや醜さと向き合い初めて人は変わる。弱いから助け合い尊重する。お前らの事情は知らんがそれは覚えておけ」


「はい……」


 私はクロノさんの置いてくれたグラスを手に取った。


「さっき私があそこに居たのは、この孤児院の資金援助の話をしていた。彼女、リーゼと名乗る者は私にリム……お前の情報や身柄を売ることで、その対価として援助する、と」


 え……そうだったんだ。


「断ったがな。だが……かなり迷った。だが、そうしなかったのはそれを行ったらセシルやガキ共と向き合えなくなると思ったからだ。それだけに過ぎん。私も弱く醜い。儚い存在だ。だから、セシルやガキ共が必要なんだ。リム・ヤマモト。正しさなどその程度でいいんだ。だが、自らと向き合うことの出来る強さを持つ。そんな弱く醜い者たちで集まればあるいは……見えるのかもしれん。本当の正しさが、いつか」


「本当の……正しさ」


「ああ」


 私はグラスを見つめているうちにじわっと涙でぼやけてくるのを感じた。

 私……弱くて醜くてもいいんだ……

 私は、急に背中を押されたように感じて、グラスを高々と掲げて言った。


「まずは第一弾! 我らチーム半分こ。辛いときも悲しいときも、自分が嫌になったときもみんなで助け合います! はい!」


 その言葉に合わせて、コルバーニさんとアンナさん、オリビエもグラスを高々と掲げた。

 そしてお互い乾杯して中身を飲ん……だ。


 え……? これ……?


 飲んだ途端、喉の奥がカッとなり頭がクラクラしてきた。

 まさか……お……酒


「……すまん! 私のグラスと間違えた」


 クロノさんの慌てたような声を聞きながら、私は天井がグルグル回るのを感じた。

 そして「リムちゃん!」と言うオリビエの声。とみんなのボンヤリする姿を見ながら、意識が遠のいていった。


 そして、翌朝の二日酔いを迎えるまで「チーム半分こ」のみんなでお話しする夢を見ていた。そこにはライムもブライエさんもおじいちゃんもいた。

 いつかきっと……みんな一緒に。


【第一部 完】

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