萌芽
コルバーニさんがそういった途端。
それまで泣いていた彼女は、ハッとしたように顔を上げるとコルバーニさんを見て……目の前のコップの中の水を思いっきりかけた!
え……
呆然とするコルバーニさんと私たちに向かって、彼女はまくしたてるように言った。
「子供は嫌なの! もう見たくないの……お願いだから消えて。あなたたちも!」
「……この!」
アンナさんが気色ばんで立ち上がった時、隣に座っていたクロノさんが手で制して立ち上がり、彼女の所に歩いて行った。
彼女は、クロノさんをにらみ付けてたけど、お構いなしに彼女のそばに立つとそっと背中をさすった。
「辛いことがあったんだな……大丈夫だ。君はよく頑張った。もう休んでいい」
彼女はクロノさんの言葉に最初は身構えていたけど、そのうち眉を下げて唇を真っ直ぐ引き締めると涙を溢れさせそのままシクシクと泣き始めた。
その時。
クロノさんが彼女の背中を彼女の背中を撫でると、彼女はそのまま心地よさそうな寝息を立てて、カウンターに突っ伏して眠ってしまった。
「クロノさん……」
「ガキ共で慣れている。人に安らぎが必要だ。何よりずっと泣かれていると私が面倒だろうが
※
安らぎ……
そんな事考えた事も無かった。
その時、私の頭の中にフッと小さな芽のような「万物の石についての何かの考え」が浮かびそうだったけど、それはすぐに消えた。
何だろう……
安らぎ。感情のコントロール……
「クロノ、感謝する。ふむ。彼女はなぜか分からんが子供にエラく拒否感があるようだな。で、あればクロノとオリビエ。お前らの出番だ。期待しているぞ」
「だから、お前は何様なんだ。コルバーニ」
「まあまあ、でもエルジアと言うのは中々キナ臭そうだ、どっちにせよ見過ごせないだろ? おっさん」
「興味ない」
「またまた。そう見せて困ってる人をほっとけないんだろ?」
「気のせいだ」
それから10分ほどの後目が覚めた彼女はかなり落ち着いており、先ほどの半狂乱と言える様子は無かったけど、クロノさんとオリビエを見て余計に落ち着いたらしく、私たちのテーブルに座るとペコリと頭を下げた。
特にテーブルに戻ったコルバーニさんには気の毒になるくらい何度も頭を下げていた。
「私も事情を知らずに無神経でした。なのでお気になさらず。私たちは隣国より王命にて派遣されたラウタロ国の実情を確認するための調査隊です。証拠もお見せします……オリビエ。国王の書状と指輪を」
そう言うとコルバーニさんはオリビエの方を見た。
あ、もしかしてカンドレバの街で私が大暴れしちゃったときに、場を納めてくれたあの時の……
予想通り、オリビエは懐から指輪と書状を出して見せた。
コルバーニさん、そのしれっと息吐くみたいに嘘つけるの才能だよね……
合わせるオリビエもだけど。
彼女は穴が空きそうなくらいじっと指輪と書状を見て、慌てて頭を下げた。
「隣国からの使者様とは知らずにご無礼を……精神的に参っていたので」
そう言って再度頭を下げる彼女に、オリビエは優しく話しかけた。
「あなたが逃げてきたと言うのはクレアトーレ・エルジアの所から、で良かったですか?」
「はい。彼女の屋敷から……ただ、すいません。あそこでの事を話すのはご容赦ください。思い出すと……」
「分かりました。私どもも深くは伺いません。ただ、その屋敷の場所と彼女の屋敷で行われていることについて教えてください」
※
「お! お! リムちゃん可愛い~。めちゃ似合ってるじゃん」
「えっと……そう……かな」
「ヤマモトさん、私……何というか……顔が熱いです。そのお姿目に毒です」
「でも、コルバーニさんもアンナさんも似合ってるよ……メイド服」
あの酒場でのやり取りから1週間後。
私たちは彼女に教えてもらった情報を元に、ゴンドラでクレアトーレ・エルジアさんのお屋敷にやってきた。
そこは、庭の木や石像を含めてあらゆる物が綺麗に左右対称となっている、まるで英国貴族のお屋敷の様な外観で、他の建物のような白い壁に青い屋根ではなく、赤いレンガ造りで屋根は黒っぽい雰囲気だった。
そして、私とコルバーニさん、アンナさんは今からお屋敷に潜入する。
……黒いメイド服を着て。
って言うか、何でこうなったんだろ……
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