私の友達(1)

 翌日。

 ラームの言ったとおり、私とクロノさん……そして何故かアンナさんも一緒に久々のおタマちゃんに乗って街道の上空を進んでいた。


「クロノ。今回はお前とヤマモトさんの時間ではなかったのか? 私が邪魔をする事になってるが……」


「ふっ、すまんな。モテる男は誤解を招きやすい。そうなってパーティの輪を乱しては本末転倒だ。どこかのリーダーのようにな。だから証人が欲しかったのだ」


「え? それって誰!? とんでもないよね」

 

 思わず身を乗り出して言った私にクロノさんはポカンと口をあけて言った。


「お前……よく天然だと言われないか」


「ふざけないで本当の狙いを話せ。どうみても遊びに行くとは思えん。後、なぜ私なのかも答えてもらう」


「今回、お前らにはある人物に会ってもらう。二人はお前らも良く知っている人物」


 え……

 私は言葉の意味がよく分からなかった。


「おい、どういうことだそれは。そして今から向かう街はまさか……」


「それはこの場で話すべきか判断しかねている。すまないがまずはロブルハーンに着くのが先だ」


 ロブルハーン……えっと……そこって。


「……ライムの反応があり、リーゼが向かった街」


 あ! そうだ! そこだった。


「その通りだ。そこでライムとリーゼに会ってもらう」


「先生を連れてこなかった訳もそれか」


「そうだ。奴はクローディアの件もある。リーゼとラームで話した結果、まずはこのメンバーで、となった。本来、ヤマモトも時期尚早と思ってたが、ラームから『今のリムなら受け止められる』と言う話があってな」


「……ゴメン、全然話が見えないんだけど、どういうこと?」


「ここでは流石に話せん。アンナ、済まんがもしヤマモトが動揺した時は支えてやってくれ」


 ※


 流石におタマちゃんだと馬車よりはるかに速く、お昼過ぎにはロブルハーン近くに降り立って、いつの間に用意していたのか通行証を使って町に入った。


「ねえ、クロノさん。いつの間にリーゼさんや……ライムとそこまで」


「ロッドベリーの街に入ってからだ。私は最初からリーゼは信用できると思った。まぜなら彼女はライムのためなら命を捨てても良いと本気で思っている。そして、反面利害のためなら自らの思いもコントロールできる。後、ライムはヤマモト。お前をずっと守っていたしな」


「え!? そう……なの? 石を奪って、私を切り捨てようとしてたんじゃ……」


「お前は阿呆か。だったら、ライムとリーゼだったらとっくにできてただろう。何せお前はただの平民の小娘だ。仮にも一国の諜報機関のトップクラスが本気で狙ってあれなら、そんな国とっくに無くなってる」


 そう一気に言うと、クロノさんは私の目を見てニッコリと笑った。


「ライムはずっとお前の味方だった。ずっとだ」


 ※


 街の大通りから細い裏道に入ってからもクロノさんの話は続いた。

 周りの街の景色が全然目に入らない……

 一体何を聞かされてるんだろう。


 微かに震える私の手をアンナさんがギュッと握ってきた。

 驚く私にアンナさんがすまなそうにつぶやく。


「すいません、私で……でも、少しでも気が軽くなるなら」


「ううん……有難う。凄くホッとする」


 そう言うと、アンナさんは嬉しそうに微笑んだ。


「いいか、ヤマモト。私の考えは前と変わらん。お前の持つ万物のペンダントの力など実際は大した価値では無かった。本当の価値はだったんだ」


「私……自身?」


「そうだ。そして……」


 そこまで話すと、クロノさんは細い通りの周囲の壁にどうかしているような古びた宿屋を見上げた。


「ここからはリーゼと私で説明する。以前聞いた『存在』の事もある。急いで聞いてもらわねばな。だが……覚悟はいいかヤマモト。ここからはお前の本当の強さが試される。お前の信じていたもの。それが剥がされるだろう。いや、正しくはお前とコルバーニか……」


 私は震えながらも頷いた。

 ここまで来て……引き帰したくない。


 頷いた私にクロノさんは向き直り、しゃがみこむと私と目線を合わせてにらみ付けて言った。


「それは最終結論で良いな!」


「うん。もう引き返さない」


 クロノさんはその途端、優しく笑うと、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「忘れるな。誰に裏切られてもお前には信じるべき」


「一つ聞いてもいいか? さっきから話の中にお前とリーゼしか出てこないがライムは説明しないのか? あいつこそが一番の鍵なのだろう」


「ふっ、アンナよ。ヤマモトへの色ボケ以外は流石に冴えてるな。なぜ、こんな形で会ってもらうのかもその理由だ。とにかく入れ」

 

 え……? なに、それ。

 私は宿屋を見上げた。何の変哲も無い建物が酷く威圧感を持っているような気がした。


 宿の中はかび臭くて薄暗い。

 なんでこんな所に……まるで……


「まるで人目を避けているようだな。今までのライムとリーゼはそんな事をしてなかっただろう。何がそうさせてる?」


 アンナさんの問いにクロノさんは無言のまま、カウンターのおじいちゃんに小声で二言三言話すと、そのまま奥にある階段を上がっていった。


 アンナさんは急に立ち止まると、私に耳打ちした。


「クロノは裏切るような奴では無いでしょう。ですが他の二人は分かりません。なので、念のため私の後ろについてきて下さい」


 私は小さく頷いた。


(ねえ、ラーム。あなた何を隠してるの)


(堪忍な。順を追って話さんとリムはんに酷やろう)


(そうやって隠されてるのも酷なんじゃない?)


 そう言ってみたけど、ラームはうんともすんとも言わない。

 全く……


 そして奥の部屋に着くと、クロノさんは軽くノックをした。

 すると「どうぞ」と言う聞き覚えのある声が聞こえて、心臓が大きく高鳴る。

 リーゼさんだ……


 クロノさんは無言でドアを開けると、そこにはリーゼさんと……


「ライム……」


 その部屋はベッド1台と、横に小さな机があるだけの簡素な部屋だったが、机の横にはリーゼさんが立っていた。

 そして、隣のベッドにはライムが座ってたけど……なんか違う。

 私が見てきた、キラキラまばゆいほどの雰囲気は無く、茶色の質素な服を着ていて髪は乱れ、顔も薄汚れている。

 これ……なんなの?


 ライムは私の声にキョトンとしたような、どこか怯えたような目を向けるとぽつりと言った。


「あなた……誰ですか? なんでこんなに沢山の人がいるんですか?」


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