南南東に針路を取れ(5)

 リーゼさんはその言葉と共に、ジャック君から離れてクロノさんに向かって剣を構えた。


「覚悟しなさい、クロノ・ノワール……と、見せかけて」


 そう言うと、リーゼさんは私に向かって斬りかかってきた。

 え!?


 慌てて鳥さんの盾を出して防いだ。

 うそ! 私を狙えって言ってないのに。


「今です! ライム様」


 リーゼさんが言うか言わないかのタイミングで、ライムがクロノさんに斬りかかった。

 しまった! 盾を2人分出せなかった……リーゼさん、それを知ってて…… 


「ダメ!!」


 その時、ジャック君がライムの前に割り込み、ライムに体当たりする形になった。


「くっ、ジャック・カー!」


 ライムは倒れること無く踏みとどまると、すぐさま剣を構え直した。

 

 ダメだ……みんなを待ってる時間がない。

 仕方ない! 

 私は念のためイメージしておいた第二弾を出した。


「おタマちゃん! お願い!」


 その言葉と共に羽を生やした真っ黒な玉が出てきたので、ジャック君とリーゼさんの間に飛ばして、リーゼさんを跳ね飛ばした。


「ジャック君、それに掴まって! クロノさんも!」


 ジャック君その言葉で、クロノさんを抱えておタマちゃんに乗せると、自分も掴まった。 よし!

 私も急いで飛び乗った。

 これでみんなの所に……は、無理だ!

 ライムも察してるのか、みんなの方向を塞いでる。

 この場を離れることが先。

 やむなく、適当におタマちゃんを飛ばした。


 その時。

 眼下のライムの声が途中までしか聞こえなかったけど、私の耳に残って離れなかった。


「リム! あなたのため……」


 あなたのためって……訳分かんない。 

 って言うか……


「ねえクロノさん! どこにしがみついてるの!」


 そう、何故かクロノさんは必死な顔して私の……腰に抱きついていたのだ!


「どこでもいいだろう! 落ちる……助けて……」


「おタマちゃんにつかまってよ変態! って言うかそこはホントにやめてったら!! もうヤダ!」


「そのとおりだ、クロノ。その汚れた手を離せ。ヤマモトさんの清らな身体が穢れる」


「へ? なんか今、アンナさんの声が……」


「知らん! どうでもいいから、暴れるんじゃない! 落ちるだろうが」


「じゃあ離れてよ!」


「そしたら落ちるんだ!」


「ヤマモトさんから……離れろ!」


 その声と共におタマちゃんの下からアンナさんの顔が出てきた。


「あ……アンナさん! どうして」


「2人を呼びに言ったら、丁度おタマさんが飛び上がろうとしてた所だったので……事態は分かりませんでしたが、ライム達が居たので只事ではないと思い」


「そうなんだ……有り難う。会えて嬉しい」


 そうニッコリ笑って言うと、アンナさんは顔を真っ赤にして「にへら」と言う単語が似合う表情になった。


「えへへ……そのような……もったいない」


「ううん、本当に嬉しい……って、キャア! クロノさん、また変なとこ触った〜!!」


「ヤマモトさん、良ければ叩き落としましょう」


 その時、ジャック君がブスッとした表情でクロノさんに近づき、手を取ると「僕に掴まって下さい」と言って自分の腰にクロノさんの手を持って行った。


「すまん、ガキ。どこかの貧相な女とは大違いだな」


「うるさい、変態! 今度お尻触ったら蹴り落としてやる!」


「クロノさん……ジャックと呼んでください。僕の腰にしっかり掴まってて下さいね。落ちたら大変だから……。先ほどは有難うございます。さっきのは僕を……助けようとして下さったんですよね」


「そんなつもりはない。ガキは嫌いだと言っただろ。あくまで私のためだ」


 すると、ジャック君は……初めて笑顔を見せた。

 しかも恥ずかしそうに!


「僕も、意地っ張りの大人は……嫌いです」


 ポカンと見ている私に目をやると、ジャック君はガラッと表情を変えて、元の鉄仮面のようになった。


「リム、さっきからうるさい。仲間との合流は無理だ。このまま南南東へ飛ばして。そこにクレドールの街がある。コルバーニ達も目指すはずだから合流できる。クローディア・アルトの住む街だ」


「え? え? どっち!」


 ジャック君はため息をつくと、指を差してくれたのでそっちに向かって飛んだ。

 ああ……どうなるんだろ。

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