まだ弱くて小さな力だけど

「なに? お前? ガキは入ってくるんじゃねえよ!」


 そう言った次の瞬間、男の人はにまるで糸の切れた人形のように後ろに倒れた。


「……なんだ、お前」


 大男さんは呆然と言ったけど、負けないくらい私も呆然としていた。

 顔が……痛い。

 だから、幻見てるのかな?

 こんな所に……いるはずない。


「コルバーニさん……」


「リムちゃん……頑張ったんだね。本当に……」


 コルバーニさんは泣きそうな笑顔で私をじっと見つめると、男の人達に顔を向けた。

 そこには、今までに見たことのないほどの激しい怒りの色が見えた。

 

 「このガキ……よくもザックを」


 そう言って片割れの人が剣を抜いたが、コルバーニさんはそれを無視してズンズンと前に歩いてくる。


「女子供にしか手を出せないガキがしゃべるな……気持ち悪いんだよ!」


 そう言った次の瞬間。

 コルバーニさんはもう一人の目の前に飛び込むと、お腹を殴りつけた!


 え……パンチ!?


 男の人は、うめき声を上げて前のめりになると、コルバーニさんの顔面への二発目のパンチを食らい、抵抗する間もなく後ろに倒れた。


「今の私は手を抜けない。リムちゃんには殺しの場面に立ち会わせたくないからね。だから剣は無し」


 そう言うと、コルバーニさんは大男さんをにらみ付けた。


「お前は特に許せないね」


「だから何だ? 俺はそいつらとは違う。ってか……お前、中々可愛いじゃねえか」


 え……?

 大男さんはコルバーニさんを世にも下品な目で見ている。

 そういう趣味の人!?


 大男さんはコルバーニさんの倍……どころじゃない大きさ。

 しかも斧を持ってて……なのにコルバーニさんは剣を抜こうとしていない!?


「コルバーニさん! 剣を抜いて!」


「やめとく。剣を持ったら多分コイツの首落としちゃうからね……」


「余裕だな。じゃあまずは両腕の骨を外す。そして抵抗できなくしてから……遊んでやる」


 大男さんは下品な笑みを浮かべながら言った。

 聞いている私も鳥肌が立ってくるものだったが、コルバーニさんはニヤリと笑みを浮かべて言った。


「格好つけてないで早く来たら? 遊んで欲しいんでしょ、ロリコンのお兄ちゃん」


 その言葉に大男さんは顔をこわばらせると、コルバーニさんに向かって両腕を伸ばしてつかみかかった……が、次の瞬間コルバーニさんは大男さんの懐に飛び込むと、その腕を掴んでそのまま前方に引き出した。

 そして次の瞬間。


 大男さんは……宙に舞った。


 これ……知ってる。

 マンガで見た……一本背負い。


 そう思った途端、大男さんは地響きのような音を立てて床にたたきつけられた……顔面から。

 ……これ、絶対痛いやつだ。


「リムちゃんの痛みをちっとは味わえ」


 コルバーニさんは冷ややかにそう言うと、私達の所に歩いてきた。

 そして、何も言わずに私をギュッと強く抱きしめた。


「よく頑張ったね……勇気……出したね」


 その言葉に私は張り詰めていた糸が切れたように感じて、コルバーニさんの胸の中でシクシクと泣き始めた。

 ああ……もう、泣いてもいいんだ。

 弱くなっても……いいんだ。


「たっぷり泣いて。もう大丈夫だよ」


「また……頑張れなかった。私、弱かった」


「いいんだよ。弱いから誰かを慈しんで守りたいと思える。小さいけど自分のできる全てで。そう思った時からその人は……いつか絶対に強くなれるんだよ」


 そう話すコルバーニさんの言葉も震えていた。

 泣いてる……の?

 でも……あったかい。

 そんな安心感に包まれていると、急に大きな足音が聞こえてきた。


「姉さん! 大丈夫ですか!?」


 あ、あの声。

 顔を上げると、やっぱりウィトンさんだった。


「本当に……申し訳ありません! 俺の名前を出してくださいと言っておきながら、そんな傷を……コイツらは責任持って俺が奴隷船に……」


「リムちゃんの居ないところでお願いね」


「もちろんです! ところで……あなたの事を姉御と呼んでもいいですか? あなたのあの投げ飛ばす姿……俺は女神を見ました。剣は捨てます! これからの我が人生はあの技の習得に捧げます。なので、週1回で弟子にしてください!」


「やだ。さて……リムちゃん。はい、これ」


 そう言うと、コルバーニさんは胸元からペンダントを引っ張り出して、私に渡した。


「もう返してもいいよね?」


「……いいの? 私、まだ答え……」


 コルバーニさんは優しく微笑むと言った。


「もう答え出したじゃん」


 恐る恐るペンダントを受け取ると、首にかけた。

 懐かしいな……この感触。

 そして……ペンダントが……青く光り出した。


「心のままに使って。今のリムちゃんなら大丈夫」


 私は頷くとイメージを浮かべた。

 すると……青い光がサリアちゃんとリード君を包み込んで……二人の打ち据えられていた時の傷が元に戻った。


「リムちゃん? 自分の顔は……」


「いいの。石の力は大切な人のためだけに使うから」


 コルバーニさんに向かってそう言うと、ニッコリと笑った。

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