リムの世界(2)

「おじいちゃん……なんで、コルバーニさんまで。おじいちゃん、本当に……」


「りむ、君には分からないだろう。何物にもなれず、贖罪の念だけで全てを失っていく気持ちが。僕の人生は何だったのか……石に取り付かれ、世界を変える夢を見て。でもその挙句が世界に災厄をばら撒き、声も聞いた事の無い赤ちゃん……君に残酷な生を与えた。死人だったりむに石の苗床としての生を与えた。そんな私と君が世界を作りかえる。それも良いのではないか」


「それは違うよ、ユーリ。あなたにとっての償いって、ただ失っていくだけだったの? 私やアリサは『失ってばかりの旅』なんて思って無かったよ。もちろん、楽しいばかりじゃ無かった。怖い事も辛い事もあった。罪の意識で泣きたい事も。でも、私は……あなたとアリサと居れば、笑うことが出来たし思いっきり無く事も出来た。ユーリは……そうじゃなかったの?」


「ああ……そうだな。その答えは、今のこの現状ではないか?」


「ユーリ……」


「さあ、りむ。どうする? もし君が一緒に歩んでくれるなら仲間は殺さない。アンナ・ターニア……だったかな? 彼女にも我らと同じ永遠の生を与える。アリサは……残念だが」


 私は何も言わず、ただその場に立っていた。

 

「どうした、りむ? いくら悩んでも結論には影響しない。早く決めなさい。協力するか、仲間と共に……」


「どっちも嫌だ」


 無表情になるおじいちゃんに向かって続けた。


「私はこの世界に来て、最初はライムだけだった。でも、いろんな人たちに出会った。ねえ、知ってる? おじいちゃんが世界の全てだった頃。色んな事から逃げていた頃。それから色んな人に出会って、色んな事に出会って。笑ったり泣いたり。ドキドキしたり。時には、怖くて泣いたり。でも……私はみんなのお陰で勇気を知った」


 そう話したとき。

 外から大勢の人たちの声がすると、建物の中に沢山の兵士が入ってきた。

 そして、その先頭に居るのは……


「リムちゃん、待たせちゃったな」


「リムさん、お久しぶりです」


「オリビエ、ブライエさん……間に合った」


 そう、私はみんなに知らせた。

 私は1人では何も出来ない。

 でも、みんなとなら……進むことが出来る。


 私は、自分の右腕をおじいちゃんに向かって振り下ろした。

 それは深い青に輝く刃となっていた。


「間違わないで、おじいちゃん。みんなを呼んだのは逃げるためじゃない。みんなを助けるため。おじいちゃん。あなたは、私とライムが……やっつける」


「勝てるのか? 君が? 泣き虫で怖がりの君が」


「うん。泣き虫で怖がりだよ。でも、それでも前に進む。それが勇気だから。私は万物の石。でも、私は……この身体の中の石は破壊のためにあるんじゃない。私なりの償いをするためにある。最初の償いは、おじいちゃん」


 私は涙で滲む目をグッと拭うと、おじいちゃんをにらみつけた。


「私の手でおじいちゃんに償ってもらう。その後……私は絶対逃げない。自分の全てから。だって、みんなが居てくれるから。それに私には、みんなに教えてもらった……勇気があるから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る