南南東に進路を取れ(3)

 私は、この話の矛先を変えたくて、ジャック君に言った。


「ねえ、ジャック君。君が捕まっちゃったから、クローディアさんを狙う人はいないのかな?」


「おめでたいですね、リム・ヤマモト。そんな訳ないでしょう。我らは複数差し向けている中の一隊。他に複数向かっています」


「ま、だろうね。その中で少年の優先順位が何番かはともかく」


 そう言ってクスクス笑っているコルバーニさんにジャック君は、初めて気色ばんだ様子で睨みつけた。


「それはあなたなんかに関係ない。後、僕の名前はジャックです。少年じゃない。訂正して下さい。僕の扱い次第では今後のあなたたちの運命が大きく変わる事をお忘れ無きよう」


「あらら、ゴメンね少年。私こういう所、気が利かなくてさ。そうそう……1つだけお姉さんから確認ね」


 そういうとコルバーニさんはそれまでの笑顔を消して能面のような無表情になると、ジャック君に顔を近づけて静かに言った。


「まさか今でも自分が『狩人』だとは思ってないよね?」


 私は思わず息を呑んだけど、ジャック君も顔色が青ざめたのが分かった。

 よく分からないけどコルバーニさんの空気がサッと変わった。

 ジャック君は小さく震えながらもコルバーニさんを真っ直ぐ見返した。


「今のあなたはリムちゃんの手のひらの上。賢いジャック君なら分かってるだろうけど」


「僕をどうする気だ。殺すのか……」


「感謝しなよ。それはリムちゃんが望んでない。君を痛めつけて吐かせるのもね。ただ……後はお姉さんにしゃべらせないで欲しいな」


「少年。亜里砂は君に危害は加えない事を約束できる。なので協力して欲しい。我らに知っていることを話して欲しいんだ。全てとは言わん。君の話せること……そうだな。クローディア・アルトの所在であればどうかな? ああ、怖がらなくてもいい。我らは君の味方だ。良ければワインでもどうかな」


 ガリアさんは優しい笑顔でそう言うと、革袋を差し出した。

 その態度にホッとしたのか、ジャック君は革袋を受け取ると中のワインを少し飲んだ。

 すると、真っ青だった頬に赤みが蘇ったように見えた。


「コルバーニ。確かにあなたの言うとおりかも知れませんね。今の僕は何も力を持たない。やむを得ないので今は手を組みましょう。クローディア・アルトの所在もしゃべらないと、僕の身の安全は保証されない。リム・ヤマモトが僕に常時着いてるわけではないので」


 コルバーニさんが笑顔を浮かべて口を開こうとすると、ガリアさんがジャック君の肩を軽く叩いて言った。


「もう一度言うが、亜里砂は君の味方だ。旅において仲間は金よりも貴重だ。大事にして欲しい。だからあまりいじめないでやってくれ。いいかな?」


「……失礼しました」


「少年。クローディアと合流できたら解放してあげるよ。約束する。後は……リムちゃんに二度と近づきさえしなければ、私たちからどうこうする事は無い」


「約束してもらえますか?」


「もちろん。君が私を甘く見さえしなければ、約束は守られる」


 ジャック君はしばらく無言で考えていたようだけど、やがて頷いて言った。


「1つだけ条件があります。それを聞いてもらえるなら、クローディア・アルトの所在を教えます。後、ユーリの所在も。承諾して頂けないのならこの場で毒を飲みます」


「おお、穏やかでないね。どうする、リムちゃん?」


「その条件って……何かな?」


「公爵に僕の裏切りの件は黙っていて欲しい」


「君、ホントに公爵大好きなんだね」


 呆れながら話すコルバーニさんをジャック君は冷ややかに見た。


「あなたには分からなくて結構です。あの人は僕の親代わりなので」


「わ、わかった。そうしよう、みんな! いいよね」


「私はリムちゃんが言うなら従うよ」


「私も同様です。トップの指示は絶対なので」


 コルバーニさんとガリアさんに続いて、みんなも同意してくれたのでジャック君にさっきの件を約束した。


「じゃあ、取引成立ですね。ここから南南東にあるクレドールと言う小さな町があります。そこにいます。まだ他の隊も追いついてないはずなので、今から急げば間に合うでしょう」

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