イッツ・ショータイム
広間の真ん中に出た私は、その他大勢として見ている景色と自分が中心になった景色が全く異なる事にまたまた怖じ気付いていた。
そして目の前には勝利を確信して嫌らしい笑みを浮かべているスキンヘッドさん。
手に持っているのは竹で出来た模造の剣。
私の世界で言うところの竹光って奴?
コルバーニさんが掛け合って、ルールを変更してくれたのだ。
スキンヘッドさんと私、それぞれ空気をパンパンに詰めた野獣の腸? をそれぞれ身体の五カ所に着けて、スキンヘッドさんは私の着けている全ての腸袋を。私はどれか1つを割れば勝利。
これなら大けがは避けられそうだけど、それでも危険なことに違いない。
一応全身に固い革鎧を着けてるけど、竹光とは言え当たったら絶対泣いちゃうよね……
「コルバーニさん、有り難う。これなら大分安全かも……」
「こんな程度の事……最初嫌がってたけど、私とアンナで1人ずつ拷問にかける、と言ったら快く了承したよ」
それ……快くはないよね。
ま、でもすっごく助かったけど。
チラリと広間の端に目を向けると、スキンヘッドさんが仲間と話しながら悠々と舞台に出てきた。
「リムちゃん、その鎧も悪くないけどやっぱりビキニアーマーだと思うよ。もう君に似合う奴の候補は気合い入れて選んだから」
そう言ってウインクをしてきたけど、全身に鳥肌が立つ……ひゃああ。
ってか、どいつもこいつもビキニビキニって……そんなにいいなら自分で着てよ!
「そない怖がらんでもええよ。とにかくうちの言うとおりにしやね」
「い、言われなくてもそうするよ。私、ちゃんとした剣士さんと戦ったこと無いんだもん」
「リムはん、確か運動神経壊滅的やったね?」
「う、うん……自慢じゃ無いけど体育は毎回1か2……」
「それは確かに自慢にならへんね。でも……今回はそれがうちらにとって最大の武器になる」
「え? なにそれ……」
「見てみい。あのハゲ、勝利を確信してすっかり油断しとる。まあ、リムはんのへっぴり腰見たら、負ける可能性なんて1ミリも浮かばんしね。たぶん頭ん中ビキニアーマーのリムはんを抱っこする事で一杯なんやね」
「その単語はもういいって!」
「まあまあ。『ウサギとカメ』油断は人を簡単に腐らす。格上が格下に負けるときはほぼ全て油断によるものや。今からあんたが絶対に守るべき事は2つ。一つ目はうちを信じてハゲの動きをしっかり見ること。二つ目は、うちが合図したらこれを奴に向かって言うんや」
そう言うとラームは直接脳内に向かってある単語を言った……
って、ええっ! やだやだ! 絶対そんなの言いたくない!
「言うだけやって。これが最強の決め台詞なんやから。勝ちたくないんか?」
「か……勝ち……たい」
そう。
勝ってコルバーニさんやアンナさんを馬鹿にした奴らを見返したい。
「じゃあ決まり。今からあんたの脳内に向かって指示を出す。その通りにな。おっと、もう始まりやね。イッツショータイム!」
なんでそんな嬉しそうなのよ!!
スキンヘッドさんは竹光をクルクル振り回すと、私に向かって駈けだして来て真上に振り上げた。
すると
「左に3歩」
と、ラームの声が聞こえたので、慌てて左に3歩動く。
すると、次の瞬間私の真横を竹光がかすめた!
ひゃああ!!
怖くて縮み上がりそうだよ!
するとスキンヘッドさんはまた竹光を握り直した。
「ハゲの背中に向かってダッシュ」
言われたとおりにすると……え! 背中に回り込めた。
「時計回りにハゲの正面へ」
慌てて正面に時計回りに駆け出すと、その直後にスキンヘッドさんが竹光をさっきまで私の居た場所に、横向きに振っていた。
あの場所にいたら当たってた……
スキンヘッドさんは「あれ?」と言う言葉が似合いそうな表情で私を見る。
「ここでニッコリ笑って!」
へ? は?
なんで?
訳分かんないけどラームに言われるままニッコリと笑いかけると次の瞬間
「お強いんですね。素敵です」と、ラームが私の声で勝手にしゃべった!
スキンヘッドさんは顔を赤くして睨み付けてきた!
「リムちゃん……お兄ちゃんの事からかってるのかい?」
「はへ? い、いえ! そんな滅相も無い!」
すると指輪から私の声でまたもや「お兄ちゃん、リムに合わせて弱くしてくれてるんだよね。嬉しい」と!
スキンヘッドさん、完全に怒ってるじゃん! 馬鹿!
「よっしゃ、仕込みはバッチリ。リムはん、人は怒ると判断力や観察力がトコトンお馬鹿になる。それを力に出来る人もおるけど、それはコルバーニはんのレベル。あのハゲでは無理やね。はい! 縄跳びの要領で思いっきりジャンプ!」
もう……どうにでもなれ!
言われるままに縄跳びみたいにその場で飛ぶと……地面すれすれにハゲさんの竹光が!
「なんなんだ……このガキ!」
スキンヘッドさん、明らかに息が荒くなってる……
「その場にしゃがむ!」
しゃがむと斜め上をスキンヘッドさんの竹光が横切った。
「さあ、最後や! ハゲの胸に飛び込むようにダッシュ!」
え! それはやだけど、言われるままにとりあえずダッシュ!
すると、目の前に風船が……丸見え。
私は反射的に竹光を風船めがけて振りぬいた。
パアン!
耳に響く心地よい音を立てて……スキンヘッドさんの風船は割れた。
周囲から息を呑む声が聞こえる。
「私……勝った?」
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