フィーゴ公爵の招待状(3)
この子の言っていることをどこまで信用できるんだろう。
そして、信用できたとしてもどうすれば……
今の私たちの目的はおじいちゃんに会って、万物の石を破壊する。
そして結晶病を無くすこと。
あと、コルバーニさんにもう一度会い、真意を確認する。
これが全て。
でも、このジャックという少年の提案はそれから外れている。
仮に信用できたとするなら「国のため」なんていう壮大で……どこか物騒な事にみんなを巻き込むべき何だろうか……
「あの……ジャック・カー君。二つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「どうぞ、リム・ヤマモト様。あなたにはその権利がある」
「そのフィーゴ公爵っていう人? 公爵って言うくらいなら権力もあるでしょ? だったらもっと大きな組織を動かせるんじゃ無い? あたし達のこともここまで調べられるくらいなんだし。あと、私たちは王の暗殺なんて出来ないし、テロリスト……えっと、国をひっくり返すような活動なんて出来ない。なのになぜそんな提案を?」
ジャック君はまるで少女のように見える顔を、真っ直ぐ私に向けると特に驚きや不満を見せること無く頷いた。
「最初の問いですが、ハッキリ言うと公爵は公的な権力はほぼございません。それは現在公爵は『死んだことになっている』からです。13年前にザクター王からの刺客によって奥様を亡くされ、娘様とも生き別れになった状態で身を隠されたフィーゴ様は、奥様の敵を討つ。そして自分と娘の間が引き裂かれた無念を晴らす。そして……暗殺未遂前からの大義であった『民のみんなが笑って暮らせる世の中を作る』を支えに泥水を啜る日々を送っていました」
そう話すジャック君は相変わらず表情に乏しかったが、その頬は僅かに紅潮していた。
「そのため、大規模な動きは出来ません。少しづつその理念に共感する仲間は増えてきてますがまだ弱い。もっと地下の組織を広げる必要がある。なので、今はその動きにくい同調する者を集める活動もあるのです」
「と、言うことは我らをその公爵様の兵隊にしようと言うことか」
クロノさんの探るような口調にジャック君は淡々と答える。
「いえ、あなた方に望むのは今回の依頼のみ。誤解を恐れずに言えば、あなた方の地位と名声は公爵の望みに対し僅かに及ばず。ただ我々の大義とも重なる部分が多いので、結果的に共闘することになります。今回の任務は秘匿性が極めて高いので、公爵の仲間にも知られるわけには行かないとのことです」
「我らへのメリットは? まさか、大義に尽くすことが報酬です、ではなかろう」
「公爵……僕はあなた方の望む情報を提供できます。ユーリの正確な居場所と彼を取り巻く事象に関する情報提供。彼は現在居場所を転々としています。姿も変えている。あなた方が普通に探しても見つけることは困難。でも僕は複数箇所しぼり込める程度は把握している。また、彼を狙う存在が居ますが、それは極めて強い力を持つ。何の前情報も無しで遭遇した場合、あなた方は……全滅する」
私は全身にざわっと鳥肌が立った。
おじいちゃんが……危ない!?
そんな私に僅かに目を向けたジャック君は、クロノさんに再び視線を向けた。
「その事情もあり、ユーリとその存在の情報確保には我らでさえ極めて高い危険を伴っています。すでに僕の手の者も数名帰ってきていない。その存在に関する情報提供も、現時点でつかめている限りで行います。それだけでも皆様の生存確率は上がる。また、そのために決して欠かせない人物……離脱したアリサ・コルバーニの保護も進めます。こちらはよほど上手く移動しているのか所在はつかめていませんが、問題ないでしょう」
「その……存在ってライムやサラ王女ではなく? あと存在ってなに? 人なんでしょ?」
私の言葉にジャック君は意味ありげに薄く微笑むだけだった。
クロノさんは頷くと言った。
「ではここからは我らの番だ。まず時間が欲しい。可能ならば今から君に我らの宿へ同行してもらう。そして、我らが検討する間、別室で待機してもらいたい。その上で返答しよう。もしこの場で返答が欲しい、と言うのであればこの話はなしだ」
ジャック君は眼を僅かに細めるとクロノさんを少しの間見て言った。
「……結構。その提案受けましょう。では早速案内をお願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます