コルバーニの青い花(2)
どう答えたら良いか分からずに曖昧な返事をしたが、それを怖くて混乱してると思ったんだろう。
彼女はしばらく走ったところで立ち止まると、ぜいぜいと息を切らしながら言った。
「もう大丈夫よ……怖かったでしょ? ああ、疲れた」
私は特に疲労は感じなかったが、平然としてるのも彼女に申し訳ないので、疲れた振りをして涙を浮かべるようにした。
「はい、怖かったです。有り難うございます……助かりました」
「どういたしまして。最初見かけたとき、冗談でしょ! って思ったよ。ひ弱そうな女の子がオロオロしながら一人で森を歩いてるじゃ無い。慌てて追いかけたらオーガは出るしさ。私が居なかったらあなた、今頃アイツのエサだったんだからね!!」
なるほど、コンパスを見ている姿がオロオロしてるように見えたのか。
しかし、この怒り方も当時のライムそっくりだ。
そう思うと、心がジンワリと暖かくなってきて、彼女に会話を合わせたくなった。
まるで、ライムと旅してた時みたいだな……
「本当に有り難うございます。私、奴隷商人から逃げてきたんです。追いつかれないように森に入ったら迷子になっちゃって。もうダメだ、って思ってました」
「もう大丈夫だよ。ってか、あなた奴隷だったの!? 言われてみれば首元に傷があるわね。見た感じ細い身体だし体力もなさそうだから、なるほど説得力ある。でもさ、気持ちは分かるけどこんな森に入っちゃダメ! 分かった?」
「はい。気をつけます」
「ならよし! あなた名前は? 私はクローディア・アルト。この先の小屋にパパと二人で住んでるの」
「私は……アリサ・ガレリア」
「ふむ、良い名前じゃん。よろしくね、ガレリアちゃん!」
「あ、あの……アリサで……いいです。アルトさん。」
「そうなの? オッケー。私もクローディアでいいよ。あと、アリサ! その堅苦しい敬語はなしね。分かった?」
私はライムと初めて会った時の言葉が浮かんだ。
(やっほ。私はライムでいいよ。今後ともよろしくね、アリサ。あと、その堅苦しい敬語はやめてね)
「分かった、クローディア。今後ともよろしくね」
それから、私はクローディアの後についてしばらく歩くと、やがて泉のほとりに出た。
そこからさらに歩くと小さい小屋が建っていて、近くで一人の男性が薪を割っていた。
「パパ! ただいま!」
パパと呼ばれた薪を割っていた男性は私たちに顔を向けると、斧を置いて歩いてきた。
華奢だが鍛えられた筋肉の付いた、長髪の男性だった。
歳は……30前後だろうか。
「お帰り、クローディア。危険なことは無かったか? 所でそちらのお嬢さんは」
「聞いて! この子、一人で森を歩いてたの! 奴隷商人から逃げてきて森で迷子になってたらしいんだよ。オーガに襲われてたから助けてあげたんだ」
流石に設定的に無理があるかな、とヒヤヒヤしてたが意外なことに男性は驚いた顔でウンウンと頷いていた。
「そうか、そんな子を助けてあげたのか。凄いな、クローディア」
そう言って男性はクローディアの頭を撫でると、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。
「君も大変だったな。怖かっただろ?」
「いいえ、彼女が……クローディアさんが助けてくれたので平気です。私だけだったら今頃……」
「コイツは無鉄砲だけど、スリングショットの腕は確かだ。剣もそこそこ扱えるから、良く獣や野鳥を捕ってくれている。ああ、自己紹介が遅れたね。僕はジョセフ・アルト。この森で木こりをしている」
ジョセフとクローディアのアルト父娘か。
ジョセフの優しくも力強い佇まいとそれに甘えるクローディア。
それを見てると、お父さんを思い出した。
線が細くて不器用な人だったけど、頭が良くて優しい人だった。
私が泣いてると頭を優しく撫でてくれて、その温もりが大好きだったな……
そうだ……あの困った様に見える笑顔も大好きだった。
(大丈夫、お父さん。ありさが守ってあげるから。そんな困った顔しないで!)
(困ってはいないんだけど……。そうだな、
気が弱くて虫一匹殺せなくて……でも、誰よりも優しくてカッコ良かったお父さん。
私が泣いてるとなぜかいつも青い花を書いてくれた。
絵は下手な人だったけど、何故かそれだけは上手で、お母さんが好きだったから…と、言ってたのを微かに覚えている。
なんで私を捨てたんだろう。
そこまで考えて苦笑した。
捨てられたのに理由なんてあるか。
私の事が邪魔になった。
他に何がある。
「私はアリサ・ガレリアです。アリサで結構です」
「良い名前だね。所で……アリサちゃん、これからどうするんだ? この森を抜けるとドーレと言う街があって大きい街だが、逃げてきた奴隷商人もきっとそこに張ってるんじゃないか?」
「あ……なんとかしますので、大丈夫です。お気遣いすいません。もう行きますので」
あんな咄嗟の嘘を信じ込ませているのは申し訳ない。
早々にこの二人から離れよう。
そう思い頭を下げる私を見ると、クローディアはジョセフに言った。
「ねえパパ。彼女、しばらくここに居てもらおうよ」
「えっ! いや、私は大丈夫だから……」
「そんな訳ないじゃん! あなたみたいに弱っちい子、これからどうやって一人で生きてくの? ここで私が剣術を教えてあげる! スリングショットはそんな細い腕じゃ無理そうだしね。せめて最低限、身を守れる程度には強くしてあげるから」
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