2人目 人形遣いの能力者

次に向かったのは神田。


駅から15分ほど歩くと、立派なお屋敷が見えてきた。

赤いレンガの壁に、上半分がアーチになっている扉。

なんとも異世界のような可愛らしいこのお屋敷には、同じように可愛らしいおばあさんが住んでいる。



「すみませーん」



扉の横にある鈴をりんりんと鳴らして、私は大きめの声で屋敷の主、その他大勢、を呼んだ。


1分くらいたっただろうか。

ガチャガチャ、と突然扉から音がして、キィ、とひとりでに扉が開く。


ドアノブを掴んで、ここもまた遠慮なく入らせてもらう。

すぐに扉を閉めると、木目調の廊下が奥まで続いており、窓から入った光でなんとも上品な雰囲気のある空間が出迎えてくれた。


むに


それ以外のモノも、迎えてくれた。



「こんにちは、おサルさん。扉を開けてくれてありがとう」



そこには、ひょろひょろした両手を動かして立っている茶色いサルの人形。


両手で私の足をつついてくるので左手を差し出すと、腕を這い上がり、二の腕に抱き着いて止まった。

手足に磁石が入っており、腕にしがみつく形のぬいぐるみみたいだ。

定位置に到着したので落ち着いたのかな。


私はおサルさんの人形を身に着けたまま、明りの差し込む廊下を抜けた。



どうやら屋敷の主はリビングにもいないみたいだ。

大きい窓が並ぶこの部屋は、廊下よりも太陽の光を存分に浴びている。

アンティーク調の家具1つ1つが醸し出す空気に、私はいつも癒しをもらっている。



ぺしぺし



おサルさんが私の二の腕をたたき、前を示す動きを繰り返す。

示す先の窓を開けると―――屋敷の主、阿木あきさんがいた。


彼女は幼少期から『人形使いの能力者』として有名な、作った人形に命を吹き込める方。

そして彼女の住まうこの家は、やっぱり『人形屋敷』と言われている。

ちなみに、「それっぽくしようと思って」という理由だけでここまで雰囲気のある家にしてしまった。

ある意味永礼さんより人生を楽しんでいると思う。



「あら、もうそんな時間だったかしら。

 困ったわ、いくつになっても人形を作っていると時間を忘れてしまうの」



庭でお散歩をしていた阿木さんは、リビングに戻ってくるなり冷えたハーブティを出してくれた。

身体に染み入るおいしさ、さすが阿木さん。



「いえいえ、お気になさらないでください。

 誰でも好きなことをしていれば、時間なんて忘れてしまいますよ」

「あらあら、そんなことを言ってしまうと、大事な機会も逃してしまいますよ」



そうですかね、私が言うと、阿木さんはにこにこと笑った。



「まあ、お説教までしてしまったわ。老人の悪い癖。いけないわね」

「それもお気になさらないでください。いつもありがたく思っています」



そう?とちょっと恥ずかしそうにする阿木さんは本当に可愛らしい。


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