燃える様な思い出
俺は、姉貴ととても仲が良かった。
歳が離れていることと刺々しい性格が相まって、全く遊んでくれなかった兄貴を持つ俺には、優しく構ってくれる姉貴を好きになるのに時間はかからなかった。
優希と今のように気さくに話せるようになったのだって、姉貴が取り持ってくれたからだった。
だから、姉貴との思い出はほとんどいいものばかり。
でも、1つだけ強烈な記憶があった。
「ねえ、おばあちゃん」
俺にとっては遠い遠い昔。
陽炎の見える夏の日。
まだ小さかったから記憶はおぼろげだけど、あの日、家の中で漂うただならぬ空気を感じたことを覚えている。
ばあちゃんの服を引くと、とても悲しそうな瞳がこちらを向いた。
「どうしてお父さんとお母さんは泣いてるの?」
「…空気読めよ、バカ」
「な、なんだよお!」
「こら、
そのころ高校生だった兄貴は舌打ちと共に鋭利な言葉を振らせてきた。
ばあちゃんはまあまあと兄貴をなだめ、俺の頭を撫でる。
「ねえ、どうして、どうしてなの…?」
俺達から少し離れたリビングの窓側で、すすり泣く母の声は今でも耳に残っている。
その震える肩を抱いている父のそれも、ひどく震えていた。
「あの子は…何もしてないじゃない…ねえ、あなた…!」
「そうだよ…あの子に罪はない」
「じゃあなんで…?」
「おねえちゃんは、どこ?」
ばあちゃんはかがんで俺の瞳をじっと見た。
ゆっくりと、ゆっくりと言葉を選んで、ばあちゃんは教えてくれた。
「おねえちゃんはね…しばらく、会えなくなっちゃったよ」
「あえ、ない?遊んでくれないの?」
「……」
幼い俺の心に、一気に強い感情が押し寄せた。
「やだ!僕おねえちゃんと約束したもん!!また明日も遊ぶって!!」
「ごめんねぇ、伸太朗」
「嫌だ!やだやだー!!」
「おい!伸太朗、騒ぐなよ!」
「やくっ…そく…僕、おねえちゃんと…!」
「ごめんねぇ、ごめんねぇ」
泣き叫ぶ俺に謝りながら、ばあちゃんは抱きしめ続けた。
「ごめんねぇ、ばあちゃんに、ばあちゃんたちに力がなくて、ごめんねぇ」
それから、しばらくが経って。
姉貴は家に帰ってきた。
でも、
「ねえちゃん、おかえり!」
「…………」
「ねえ、ちゃん?」
「…あなたは、だあれ?」
辛かった。
苦しかった。
姉貴に何があったのかはも知らない。
でもいつの間にか姉貴は昔のように優しい人に戻って、いつの間にか何もなかったかのように振る舞った。
その時俺は痛感した。
『
傍に寄り添うことも、守ることもしてやれない。
その世界の大きな隔たりは、深い深いトゲとなって今も心を抉り続けている。
―――――――――――――――――
どうして、今さらこんな昔のことを思い出したんだろう。
いつもの河川敷を通ったときにはもうすっかり夜の暗さが周りを覆っていて、振り返ると優希が心配そうに俺を見ていた。
だいじょうぶ、
そう言うと、優希はそっかと言った。
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