火の渦の正体表す

金田山の中腹あたり、山道から茂みに入った先。

もうすぐ日没となる暗い空の下、低い草木が生い茂る小さな空間に、私と灯ちゃんと

真っ黒焦げな男の3人は座っていた。



改めて見ると男は異様な状態だった。


ちりちりと燃えた髪。


皮膚は真っ黒に焦げ、手足の服は焼け落ちてしまっている。


なのに、本人は全く痛そうでも嫌そうでもなく、背中を丸めて正座した状態で、ただただ申し訳なさそうに恐縮しきっていた。




「いやあ…私もどうしてこんなことになっているのか、わかりかねていまして…」



男―――源川 勇は、困った声をあげた。



「確かに金田山で行方不明になったって聞いたけどさあ…まさか黒焦げで見つかるとかヤッベーわ」



灯ちゃんはなぜか楽しそうだ。


話を聞くと、2か月前、確かに金田山に登ったのだという。

いつものように入山すると、すぐに体に変化が現れた。

感じたことない心地よい暑さ、身も心も解き放たれたような快感。

その後、毎晩のように夜空を飛び回る夢を見ては、昼に目を覚ますようになったという。



「まさか…私は2か月も夢を見続けたということでしょうか?」

「いや、夢じゃねーんだな、これが」

「え…?」



いまいち意味が分かっていない源川さん。

灯ちゃんは困ったように頭をかいて、夜な夜な山に現れた火の渦の話をした。

おそらく、その渦こそ源川さん本人であると。



「は…?私が?火を纏っていたと?一体…」

「混乱するのも無理ありません。ですが、ごく稀ですがあり得る事象なのです。

 なぜならあなたは…」



ぴり、と縁の糸が張り詰めるのを視て、私は言葉を切った。

何事かと灯ちゃんが私を見る気配を感じるが、無視して周りを見渡す。

うん?なんか…別の赤い糸が視えたような…。

そう、赤いオーラを纏っていて、まるで炎のような…。



「源川のおじさん!?どーしたんだよ?」

「!」


「ああ…日没だ……時間だ……」



源川さんは突然頭を抱えて震えだした。

私は灯ちゃんが飛び出さないように手をあげて、糸をじっと視る。

危険な色ではないけど…これはもしや…。



「う、う、うわあああああああああああああ!!」

「灯ちゃん、下がって!」

「うおわあ!?」



叫び声と共に源川さんが大きな炎に包まれた。

後ろに飛びのいた私たちはギリギリ火傷を回避する。

もう一度抜刀の準備をして、赤いオーラの縁が源川さんにまとまりついていくのをはっきり視た。



「何!?符術の暴走ってやつー!?」

「わからないけど、なんか、違うような…」

「! 見ろ菜子っち!!」



後ろにいた灯ちゃんが私の隣に出た。

再度前に行かないよう腕で制止するけど、灯ちゃんは気にも留めず一点を見つめて指さす。


浮かび上がった炎の塊に、源川さんの姿はなくなっていた。

代わりにいたものは―――




「山蜥蜴だ!菜子っち、源川のおっちゃんは山蜥蜴の『先祖返り』なんじゃねーの?!」



細い手足に大きな茶色の瞳。

炎を纏い黄金に輝くそれは、巨大なトカゲだった。

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