邂逅のその後
カランカラン
やがて音がやみ、扉がばたりと締められる。
その背が視えなくなるまで、僕はあの人の姿を見つめていた。
「ったく、変な奴がきたな」
息を吐いて悠馬さんが伸びをする。
張り詰めた空気がようやく緩んで、沖永さんが微笑んで僕を見た。
「よかったな、明人」
「…はい、よかったです。『縁視』の人に会えて」
もう一度、最後に視た扉の向こうを見つめる。
「おい明人、どーしたんだよぼーっとして」
「いや、えっと…ううんと…」
こういうような言葉は口に出したことがない。
だけど、あの人を表現するにはこの言葉しか、僕は知らなかった。
「あんなに…綺麗な人がいるんだ」
「はあ?」
いくつもの綺麗な縁を纏い、優しく微笑む姿。
他にどんな表現をしたらいいのか、僕にはわからなかった。
―――――――――――――――――
「まあ!無事に帰ってきたわ!」
7係の執務室に帰ると、来客のエリアに仮名係長と今関さんが座っていた。
にこにこと仮名さんが私に顔を向けてくる。
「はい、特に何もなく戻ってこれました」
「さすが菜子ちゃんね、あなたにお願いしてよかったわ」
今関さんの隣に座ると、仮名さんは上機嫌でお菓子を口に運ぶ。
私はどうしても気になったことを聞いてみた。
「仮名係長、瀬さんから聞いたのですが…2係が彼を施設へ連行しようとしたのは本当ですか?」
「施設に?」
仮名さんは今関さんと目を合わせて首をかしげる。
「そんな報告は受けていないわ」
「特殊能力者の強制連行は局員に危害を加える可能性がある場合のみだったはず。
どうして高ヶ埼係長が?」
「…あの子はどうも、無茶なことばかりするわね…」
まったくもう、と言って仮名さんは立ち上がる。
そのまま出口に向かって歩いていくのを私と今関さんの目が追う。
執務室に出る直前に、仮名さんはこちらを振り返ってばっちりウィンクして告げた。
「オイタしちゃった子はオシオキよ★」
「「………」」
颯爽と出ていくその姿は、男のたくましいそれだった。
「…今日は本当にお疲れ様、菜子ちゃん」
「はい、お疲れ様です…」
「とりあえず、お茶いる?」
「…いただきます」
何となく気まずい雰囲気になった私たちは、今関さんの一声で持ってきてくれたカケルくんのお茶を飲んで気持ちを切り替える。
「で、瀬くんはどんな子だったの?」
「いたってまじめ子でしたよ。礼儀正しくて良い子でした」
「へえ、『雷鳴』にも話が分かる子がいるのね」
「そうですね、あまり他のメンバーもいませんでしたし、タイミングがよかったです」
お茶をすすりながらのんびりと会話をする。
カケルくんがおせんべいを持ってきて私たちの前に置いてくれた。
「あら、カケルくんありがとう」
「いえ!今関さんのお好きな種類かと思いまして」
「あ!ちょ、それ私が持ってきたやつなんですけどー!?」
灯ちゃんが非難の声をあげる。
「菜子さんも醤油煎餅好きでしたよね、どうぞ!」
「おいカケルてめえ!」
無視されて怒った灯ちゃんがカケルくんに詰め寄る。
今関さんの前だからか灯ちゃんの前だからか、カケルくんはとても冷静に睨み返した。
この2人はなぜか仲が悪い。
「なんですか?灯さん」
「勝手に人のおやつをあげるってどーなの!?」
「適当にそこらへんに置いておく灯さんが悪いんですよ。
ちゃんと名前でも書いておいたらいいんじゃないですか?」
「わかってて出したろ!」
ぎゃんぎゃんとやりあう2人。
いつもの光景なので今関さんは止める様子がない。
私も気乗りがしないので、そのままお煎餅に手を出した。
瀬 明人くん。
彼の『縁視』の力が発揮されるのは、もう少し後の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます