閑話 休日

おそよう。

太陽の位置がいつもよりずっと高い時間、私はベッドの中で目を覚ました。

眩しい日差しに慣れるまで顔をしかめた後、昨日の疲れを取りきれていない重い体を動かして、ベッドから立ち上がる。


今日はお休みの日。




買ったばかりの4枚切りのパンを1枚食べ、ペットボトルの水を飲み干してから、クローゼットを開ける。

少し迷ったけど、深緑色のワンピースを手に取って扉を閉じた。


着替えた後、ネックレスを飾る棚で何を身に着けていこうか迷いつつ、周りに置かれたぬいぐるみたちのバランスを整える。

くまちゃん、うさぎさん、カエルにウシに…。


あれから私の部屋には黄色いくまちゃんがもう1匹増えて、随分と大所帯になった。

白を基調としたこのワンルームで唯一女性らしいぬいぐるみコレクションをぼーっと眺めていたら、なんだか面白くて笑ってしまう。


時計を確認すると、もう出ようと思っていた時間。

私は自室の扉に鍵をかけて、歩き出した。



今日は実家の『吉川家』に行くことにしていた。




―――――――――



場所はあざみ野。

少しだけ遠出して着いたそこから、河川敷をしばらく歩いた先に家がある。

冷たくなってきた風に季節の移り変わりを感じながら、学生たちやジョギングする人々に紛れて家路を辿っていく。




私は符術を使えない一般人の両親から生まれた。


小学校5年生の時に符術の力があることが分かり、卒業したタイミングで『吉川家』に引き取られた。

符術を学ぶ『特殊技術専門学校』を中等部から大学部まで通って卒業し、今の7係に配属されて今に至る。



吉川家の人々はとても優しくて、私はすぐに馴染むことができた。

今となってはあまり帰らなくなってしまったけれど、時々携帯でメッセージのやりとりをして良い関係を続けている。


その変わらない帰り道の景色に心を躍らせていると、ふと河川敷の下に人だかりがあることに気づいた。




あれは…高校生みたいだけど、物々しい雰囲気。

女の子と男の子の周りを取り囲む複数の男子学生たち。

彼らは全員制服を着崩して派手な髪形と色をしている。

これはまさか、ヤンキーに絡まれてる、ってやつ?


うーん、行くだけいってみるか。

あの男の子、どこかで見た気がするし…。



―――――――――――――



彼らに近づくと、やっぱり絡まれている男の子に見覚えがあった。

また背が高くなったようだけど、彼は『伸太朗』だ。

吉川家の次男、私の9つ下の弟。

いつも無表情だけれど、今は眉間にしわを寄せて周りの人間を睨んでいる。


後ろの女の子は…かわいい子だ。

栗毛の髪の毛がふんわりと肩の上を踊っている。

ぱっちりの瞳は不安そうに揺れていた。


…助けようか。



「そこで何をしているの?」



声をかけると、無数の目がこちらを向いた。




「は?」



男の子が1人、ドスを効かせて私に迫る。

怒った灯ちゃんに比べたら大したことない。



「かわいい子に集団でナンパなんてセンスがないと思うけど?」

「んだと!?」



胸倉でも掴もうとしたのだろうか。

手が迫ってきたので左手で手首を掴んで止めた。

そのままぐるりと背中を相手に預けるように周りながら、相手の手首を強く引っ張る。

バランスを崩した彼はそのまま草むらにたたきつけられた。



正当防衛、力を使わなければセーフセーフ!




「女性に片手でやられないようになってから出直すのね」




そのまま、問答無用で女の子と伸太朗の手を掴んだ私は、さっさと河川敷を後にした。

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