閑話 エニシミミマイ
会いに行く。
久々に暖かくなりそうですね、とテレビから聞こえる今日。
午後にお休みを取った私は、仕事を終えても特殊治安局の敷地内を歩いていた。
木々に囲まれ、ベンチや原っぱがある広い公園を歩く。
葉が落ち、随分と枝が見えるようになってきた木々に、冬が始まる気配を感じた。
もうすぐコートを出さないといけないなぁ。
辺りを見回すと、自分と同じような服を着た局員が休憩したり、ランチを食べたりそれぞれ楽しんでいた。
5分ほど公園の舗装された道を歩く。
お弁当を片手に歩く軍服の姿から、次第に暖かい格好で緑を楽しむ人たちに変わり、車椅子に押される人の姿が増えていく。
やがて公園を抜けて、私はとある建物の前にたどり着いた。
特殊情報管理室 別棟『
俗にいう『入院病棟』だ。
符術や特殊能力を操る人々は、怪我や病気をしても一般人と同じ病院には通えない。
得意な符術や体質によって治療方法が異なるので、ひとりひとりに最適な方法で施術する必要があることから、治療専門機関として建てられた。
私も怪我したときや健康診断にはここにくる。
…特殊情報管理室の本棟に次いで来たくないところだけどね。
建物に入る前に、私は右手に持っているものを見た。
赤く、日に当たって透けた部分は鮮やかなピンク色となっているそれらは、シンプルな茶色の紙と紐で束ねられている。
今日の持ち物はこの花束だけ。
いつも買う花だけれど、なんだか今日はいつもより綺麗に見えた。
さてさて、行こうかな。
手に包帯を巻きつけた入院患者のあとを追って建物の中へ入った。
――――――――――――――――
皮膚科、耳鼻科、内科。
ディスプレイに大きく映し出された各エリアを抜けて、中央の受付へまっすぐ向かう。
私の気配に気づいたのか、白いジャケットを羽織った女性がこちらを見た。
「こんにちは」
「こんにちは。支援一課 7係の吉川です」
「お疲れ様です。本日はどのようなご用件でしょうか」
慣れた口調で定型文を伝える女性に、私も慣れた言葉を並べる。
「『ガーベラ』棟へお見舞いを」
「はい、『ガーベラ』ですね」
女性は言葉に詰まってないと言わんばかりに笑顔を浮かべて、手元のタブレットを触る。
少し周りを見回して待っていると、明るい声が聞こえて前を向いた。
「お待たせしました。こちらのカードを首から下げて『特殊病棟』へ向かってください」
「わかりました。ありがとうございます」
黒いストラップとカードを受け取り、首にかけながら早々に受付を離れる。
気のせいかな、声が聞こえた。
「あの人…」
「ちょっと、聞こえちゃうって」
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