寄り添う。
入院病棟『花園』に入院する理由は様々ある。
ただの身体検査で入院しているエリアは元気な人が多いから、わいわいがやがやと活気がある。
怪我も体の一部だけであれば、本人は元気なので同じような感じだ。
この病棟は奥に進めば進むほど、静かになっていく。
闘病中のエリアに来れば、懸命に生きようとする人、最期の時を最愛の家族と大切に過ごす人、状況は様々になっていく。
そのエリアすらも超えて歩くこと10分少し、私は黒い扉の前に立っていた。
重そうなその扉は、白を基調とした病棟内には明らかに異様な雰囲気を放っている。
右側に小さく置いてある台にカードを重ねると、電子音がして黒い扉がゆっくりと開いていった。
黒い扉のその先は、他のエリアと同じ白い廊下が広がっているけれど、人の気配は明らかになくなっていた。
―――――――――――――――
ガシャン
黒い扉は私が通り過ぎたのを見計らって閉まる。
コツ、コツ
私の靴のヒールの音でさえも遠くまで響くような空間。
それは見舞いに来る人はあまり多くないことを物語っていた。
特別病棟『ガーベラ』
文字通り特殊な人々が入院しているエリア。
とはいっても、ここに居るのは同じ事情の人たちばかり。
私は時々1人でここへ来て、『彼ら』に会う。
せめて私だけでも、そう思って。
『希望』の花言葉を司るその病棟の一室へ、私は迷うことなく入っていった。
―――――――――――――――
都会ではそうそう味わえない、静かな空間がそこにあった。
身体検査で入院する人たちと同じ、6人1部屋の空間。
その1つ1つはきっちりと白いカーテンに囲まれて、揺れることなくそこに佇んでいる。
ピッ ピッ
機械が動くわずかな音が聞こえる。
私は部屋の一番奥へ向かい、カーテンをゆっくり開いた。
そこには、人が眠っていた。
綺麗に整えられた布団に皺ひとつ増やすことなく、彼女はただただ、そこにいた。
茶色の髪は長く伸び、固く閉じられた瞼は開く気配がない。
けれども顔色はとてもよく、一見来訪者に気づかないほど深く眠っているだけの姿をした女性だった。
花束から1輪の花を抜いた。
病棟と同じ名前のそれを、空っぽの青い花瓶に差し込む。
「お久しぶりです」
返ってくる声はない。
「今日もお元気そうで、よかったです」
長年入院をしているおじいさんにも1輪。
「もうすぐ冬になりますよ。身体を冷やさないようにしてくださいね」
若い男性の枕元にも1輪。
「もう12歳になったんだよ、あっというまに卒業だね。来年は中学生だよ」
小さな女の子にも、1輪。
ここ『ガーベラ』病棟は、今日も28人が静かに過ごしていた。
彼らの共通点は、眠り続けていること。
そして、『縁視』の力があること。
ここは、『縁視』の最期を迎えた人たちの『時を待つ』部屋と言われている。
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