屈辱のこぶし合わせ

四野見塚しのみづか けい、それがあいつの名前です」



彼――2係のメンバーとすれ違い姿が見えなくなったころ、カケルくんは私たちに教えてくれた。


「僕の出身である十三里とみさと家と同じく忍者の名門、『四野見塚』家の次男で、僕のいとこであり、幼馴染でした」

「忍者の名門、ねえ」



灯ちゃんがピンクの髪をいじりながらつぶやく。



「よりによってめんどくせー係に当たったな」

「そうですね…」

「き、気にすること!ないですから!」



カケルくんは大きな声を上げて私たちを見た。

でもすぐに下へ視線が向いてしまい、はっとして一生懸命平気な顔をして私たちを見る。



「僕はもう破門された身です。今さらあいつが関わってこようと、やるべきことは変わりません!」

「でもさ…」

「そうだね」



あえて灯ちゃんの言葉を遮って、私はカケルくんに笑顔を見せた。



「私たちは『7係』だよ。今関さんの部下として、『2係』と試合する。それだけだよ」

「はい!僕、頑張りますから!」

「うんうん、適度に頑張ろうね」



場の空気が再度温まった。

灯ちゃんはぶつぶつ言っていたが、まあいいかと気持ちを切り替えられたみたいだ。

腕まくりをしながら私たちに笑いかけた。




『さあ、次は2係vs7係の試合となります。

 両者、入場です!!』



「よっしゃあああ! 行ってくる!!」



「頑張ってください!灯さん!」

「頑張ってくださいね!」

「いってらっしゃい…」




競技場の歓声は試合を経るごとに高まっている。

その渦中に、灯ちゃんは飛び出していった。




――――――――――――――――――――





「があああああああ!」

「…お疲れ様、灯ちゃん…」

「負けたあああああああああああ!」

「腕、出して…消毒するから…」

「いっだああああああああああああああああ!!」



それから10分後の出場ゲート。

2戦目前のわずかな時間。

悔しいのか痛いのかよくわからない灯ちゃんの絶叫が響いていた。



「なんなんだよあの四野見塚のヤロー!!ぶん殴ってやりたかった!」



2係は先ほど因縁をつけられた四野見塚くんが先発だった。

戦闘派ではない灯ちゃんに対し、彼の忍術は戦闘特化の激しいもので。

10分耐えたのが逆にすごいのでは、と思うほどの猛攻の末敗れた結果になった。


ピンクの髪が一部焼け焦げ、風遁の切り傷に火遁の火傷に、土遁で汚れてボロボロになってしまっている。

…30分後くらいには私もこうなっちゃうかも。




「次、カケルくんだけど、大丈夫?」



声をかけると、はい!と笑顔でカケルくんはこちらを向いた。



「昔からあいつは戦闘センスがいいんです。力任せともいえるんですけど」

「うまいこと隙をつければいいんだけど…ともかく、気をつけて」

「はい、行ってきます!」



司会者の声に彼は迷わず駆け出していく。

忍者装束ではないその服で、彼は光の下へ1人向かって行った。






『2戦目は7係 瀧澤 カケルの登場です!』

『忍術使い同士の珍しい一戦ですね、どうなるか楽しみですわ』



わああああ、と響く歓声。

私はカケルくんの遠い背中越しに、にやりと笑う四野見塚くんを見た。






「やあやあ裏切り者のカケルくん。また戦うことになるなんて不運だよ、不運」

「…」

「ああ、君のことじゃないよ、僕のことだ。

 お前みたいなクズを視界に入れ、手を合わせるなんて汚らわしいと思わない?」

「…」



『それでは始めましょう、試合開始!!』



その合図と共に、激しい土埃が姿を隠すほど舞い上がった。



何があったんだろう。

私の目からは何も見えないけど、やがてそれが晴れると

両者の間には土の塊がギチギチと音を立てていた。



地面から出ただろう四角い土がぶつかり合い、ぼろぼろと崩れながらアーチを築いている。



「へえ!あれだけ下手だった土遁、使えるようになってるねぇ~えらいえらい」

「うるさい、黙って戦えよ」

「はいはい、相変わらずお真面目さんで~」



ぼとぼとと両者の塊が力を無くして土へ還る。

すると一気に間合いを詰め、刀同士の切り合いが始まった。



『両者一歩も譲らず!互角の争いです!』

『複数の技術と瞬発力が必要となるのが忍術ですからね、そう考えるとお2人とも十分な才能と実力を兼ね揃えているわね』



ガキン、ガキンと金属音が私のところまで響いてくる。


しばらく術を混ぜながら戦う2人に、競技場はどんどんヒートアップしていった。

すごい、カケルくんが少し押しているくらいだ。

もしかしたら勝てるのではと、希望を抱いたその時だった。




「そういえばさあ、カケル。

 お前の母さん、この前ついに倒れたんだよね~」


「………え?」




まずい!

一瞬止まってしまったその隙を、彼は見逃さなかった。




「があっっ!?」


素早い蹴りが、カケルくんのお腹に入った。

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