強き心とその代償

「隙見っけちゃったあ~♪」



お腹を抱えて苦しむ姿に、四野見塚くんは満面の笑みで眺めていた。

カケルくんは少しして何とか立ち上がり、彼を睨む。



「どういうことだよ…」

「可哀そうな可哀そうなオカーサン。

 お前が家を裏切ったあと、里での評判は悪化の一途。

 嫌味と罵声の毎日についに限界がきたってことさ~」


「ぐっ…!」



言葉もなく放たれた火球に飛ばされ、後方でしりもちをつくカケルくん。

すぐに立ち上がったが、刀を構えるその姿は確実に弱っていた。



「痩せちゃって目も当てられないねえ!

 ねえ?君はどう思う?


 誰のせいで、こうなったんだろうね~?」


「…るさい、うるせえ!!」



カケルくんは四野見塚くんに飛び掛かった。

火遁に水遁、様々な術を繰り出しながら、刀で重い一撃を加えるけれど…。

背後の無数の蔦に気づくのが遅れた。



「ぐはああっ!!」



蔦は鞭のようにカケルくんを地面へ叩きつける。

もろに受けてしまい、地面で苦しむ姿に四野見塚くんは高らかに笑った。



「なあなあ、教えてよ」

「うっ…」

「誰のせいで」

「があ…!」

「こうなったのかをさあ!」

「ぐっ…はっ…!!」

「はっ! お前のような甘ちゃんは、地面に這いつくばってるのがお似合いだな!」




踏みつける足はカケルくんの手に、腰に、足に、頭に。

あまりに見ていられない光景に、私はぐっとこぶしを握った。




『審判の判定が出ました!試合終了です!』



司会の声が響いたのは、それから数十秒が経った後だった。




――――――――――――――――――――――



「すみ、ません…っ!」

「謝る必要なんてないよ!それより早く治療を!」



終了の合図が出た途端、私は走り出してカケルくんを抱き上げ入場ゲートへ戻ってきた。

近くにいた医療スタッフと共に上着を脱がせ、怪我の状況を見る。


結構な回数の攻撃を受けていたけれど、運良く骨は折れていなかった。

とりあえずほっとした私たちを尻目に、カケルくんは座って俯いた格好のまま動かなくなってしまった。




「マジで、マジで、マジでムカつく…!!!」



灯ちゃんの怒りはカケルくんを代弁するようだった。



「あっりえない…!精神攻撃で動揺させるとか、正々堂々戦えよ…!!」

「…確かにね」



私は茶色の髪についたカケルくんの埃を払った。

それにピクリと反応した彼は、体制を変えないまま小さく声を出した。



「すみません、僕…」

「だーーから!謝る必要なんてねーよ!

 お前は全力出して負けたんだからいいんだよ!」

「全力なんて…出せなかった!」

「!」


「僕は破門されました。だからもうあいつとは何も関係はないんです。

 ……母さんだって、もうのに…動揺しました」

「カケルくん…」



『さあ、7係は後がなくなりました!

 そろそろ3戦目が開始されます!!』



時間がない、次は私の番だ。

私は顔を上げないカケルくんの頭に手を置いた。




「行ってくるよ、カケルくん。

 戻ってくる間に、1つお願いを聞いてくれる?」

「…なんですか」




「思い出して、私たちが初めて出会ったあの日。

 今関さんはあなたに何を言った?」




「……」



ぽろり。


俯く彼の下にあるコンクリートが、丸く色を変えた。



「か、カケル!?おおおおい、泣くなよ」



灯ちゃんがひどく動揺してカケルくんの肩を掴んだ。

ぽたりぽたりと落ちるそれに埜々子さんまで右往左往する。



「悔しかったよな?わかる、すごいわかるって!

 あああもう!お前らしくねーよ!な?泣くなって!な?」



やっちゃん!!なんとかして!!

ええ!?む、無理よ…私なんかどうにも…


パニック状態になっているが、私だけは冷静だった。


冷静だけれど、心の中は熱く強い想いで煮えたぎっている。




私の名を呼ぶ声が聞こえる。

歓声が聞こえる。



光の中へ、私は振り返らずに歩みを進めた。

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