大人の勝負は洒落にならない

『今年の武闘大会は一味違うか!?

 第一試合、1係vs4係の1戦目はなんと3分35秒で1係の勝利となりました!!

 いやあ、激しい開幕となりましたね、池田係長』



控えエリアから少しだけ顔を出してモニターを見上げた私たちは、司会兼実況を担当しているらしいスーツの男性の姿を眺めた。

隣には定期報告MTGぶりに見る5係の池田係長がいる。


以前とは違いふわふわの白髪はしっかりと後ろに束ねてあり、公式の軍服を着ているからか、前よりも威厳が増していた。



『ええ、若い局員同士の戦いでしたから、とてもエネルギーがありましたねえ』


「今年の解説は池田係長か~」



灯ちゃんはそう言うと、興味を無くしたとばかりに離れていった。

その後を追った埜々子さんとは対照的に、私とカケルくんはその場で次の試合を見守る。



「1係はやはり強いですね。一課の精鋭を集めているだけあります」

「4係も若い人が多いからか、どんどん力をつけてるって聞いたことがあるよ」

「そうなんですか」



試合は勝ち抜き制なので、2戦目は4係のメンバーが変わり、女性が登場した。

開始の合図とともに大量に飛ぶのは白い紙―――符だ。

女性の周りを円柱のように囲んだ白い紙たちから、鋭利な針のようなものが飛ぶ。



「あの小さい針をあんなに大量に操るなんて…すごいですね」

「どうやってるの?あれ?」

「おそらく、形状変化に傀儡の術も混ざっているかと」



『人形使いの能力者』阿木さんが使っている符術みたいな感じだろうか。

あれはぬいぐるみだけれど。

この前もらったウミウシのゆったりした動きを思い出しながら、私は私なりに理解した。



―――――――――――



それから30分ほど。

1係が勝利を収めてから順に各係は激しくぶつかり合っていた。

それを眺めつつ、身体を動かして準備をしながら私たちは待っていたが、ついに出番が来る。



7係の初戦は、高ヶ埼係長が率いる2係だった。



『雷鳴』のような反情報治安局グループを、時に知略で、時に武力で対処するあの係は、1係に次いで優秀な人材が多いと言われている。

特にあの高ヶ埼係長は優秀と言われていて、女性の中では次の昇進は彼女だろうなんて言われているほど。



あまり関わったことがないから誰が出てくるかはわからない。

ともあれ、なんとか無事にやり過ごして勝ち上がってもらおう。




出場ゲートへの移動を指示された私たちは、互いを鼓舞しながら廊下を歩く。



「最初は灯ちゃんだよね?がんばってね」

「任せろ!派手に玉砕してきてやっからな!!」

「間抜けな負け方はしないでくださいよ?」

「ハッ!てめえもなカケル!」



明るくやり取りしていると、ふいに向こう側から集団がこちらに歩いてくるのが見えた。

誰だろうねと言おうとしてカケルくんを見た私は、思わず言葉を飲み込んだ。



カケルくんの表情が、凍っている。




「あっれ~?」



向こう側から、高い男の子の声が聞こえた。



「もしかしてぇ~?

 『裏切り者』のカケルくぅ~ん?」

「…お前は…」



紫色に黄色の指し色が挟む髪に、同じ紫色の瞳。

瞳の大きい可愛らしい顔立ちだが目はにたりと歪ませて、面白いおもちゃを見つけたかのように口は弧を描いていた。


丁度すれ違う距離感まで来た双方は、ぴたり、と互いに歩みを止める。

私は彼の恰好を見て気づいた。



この子、『忍者』だ。




「あーあ!そっか、この後の試合、7係とだっけ?」

「……」

「練習にもならないから忘れてた~」

「…なんでここに?」

「ごめんごめ~ん!僕、今年の4月から2係に配属されたんだよね~

 お前も局員だったの忘れてた~」

「…そう」

「忘れてたよぅ、今の今まで、

 お前みたいなクズがのうのうと生きてたってことをさぁ!」


「テメェ…!黙ってれば何言ってんだよ…!」



灯ちゃんが眉間にしわを寄せて彼に詰め寄ろうとしたが、カケルくんが腕を掴んで止めた。

強い力だったんだろうか、いつも止めても従わないはずの灯ちゃんが驚いた顔をしてて口を噤んだ。



「…行きましょう」



カケルくんはそう言って1人歩き出す。

私たちは慌ててその姿を追いかけた。





「………フン」



なんだかとても嫌な予感がする。

彼とカケルくんを結ぶ、暗いどろどろと液体が滴りそうな糸は、どう考えても良いものではなかった。

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