第11話 支援一課 係対抗武闘大会

開会宣言

晴れた冬空の下。

ひらりと4匹の蝶々たちが目の前を遊ぶように飛び回っている。


簡易椅子に座ったままぼーっとその姿を見ていた私は、肩の軽い刺激に呼び戻された。



「菜子っちー?おーい?」

「灯さん」

「何ぼーっとしてんの?始まんぞ―」



ピンク髪を高い位置にひとまとめにした灯ちゃんの服装は、いつもの白い軍服とは違い黒いものだった。

こちらを見てくるカケルくん、埜々子さんと私も同じ黒い軍服を纏っている。

いつのまにか周りに同じような局員たちが係ごとにまとまって雑談をしている声に気づいた。



ここは特殊治安局内にある競技場。

アリーナの脇にある出入り口で、私たち7係は入場の合図を待っていた。



今日は年に1回開催される武闘大会の日。

互いの力をぶつかり合わせ、係の結束と成長を促すための一大イベント。

初戦の係対抗トーナメントとして今回は支援一課内の試合が開催される。



「…今年も1係が勝つかな…」

「支援一課で勝てば課対抗トーナメント、局対抗トーナメントで最後は特殊警察局と決勝戦、つー感じだったっけ?」

「そうよ…去年は警察局が勝ったわ…」



埜々子さんと灯ちゃんがいつもより高い声で話をしている。

場のお祭りのような雰囲気に2人とも影響されているんだろう。

椅子から立ち上がった私に、カケルくんが顔を覗き込んできた。



「体調が悪いんですか?」

「ううん、ちょっと寝不足なだけだよ」


「おいおーい、菜子ちゃんってば、今日に限って夜更かししちゃったの?」



その声に振り返ると、今関係長が近づいてきた。

服装は白い軍服のままだったが、いつもより顔色が良く

にこにこと笑って楽しそうにしていた。



「今関さん!」

「カケルくん、今日は菜子ちゃんとカケルくんにかかってるからね!頑張ってね~」

「はい!」



今関さんに直接激励をもらって、カケルくんはとても嬉しそうに頷く。



「と、言ってもまあ、初戦に勝つだけでも御の字よ。怪我しないように気をつけてくれればいいわ」

「今関さんはどちらから観戦されるのですか?」

「今回はモニターの下よ。他の係長と一緒に近くで見てるわ」



指さす先を見ると、円形の競技場のどこからでも見れるような巨大モニターの下に、色の違う席が見える。

課長、局長をはじめとした役職者や招待客が座る席みたいだ。ぺこりぺこりと挨拶して回る集団が見えた。




「次にみんなと会えるのは全試合が終わったあとになるわ。その間のサポートは埜々子、よろしくね」

「ええ…わかってるわ…」



大して役には立たないと思うけど…と変わらず消極的な声がぼそりと聞こえた。

相変わらず前髪で目を隠しているので表情は読めなかった。



それじゃあ、と去っていく今関係長を見送った私たちは、円になって改めてルールの確認をすることにした。



「…今年も形式は同じ、係ごとに3名を選出して模擬試合を行うわ…」

「3人全員が負けりゃ試合終了だっけ~?」

「そうです。だから最後の1人になっても勝ち進めることはできます」

「勝敗はどう決まるんでしたっけ?」



私の質問に毎年参加している埜々子さんと灯ちゃんが答えてくれた。



「…基本的には3人の審判のうち、過半数が試合続行不可能と判断すれば…勝敗が決まるわ…」

「下手したら殺し合いになりかねねーからな。怪我で立てないとか~気絶したりとか~で早々に決まっちゃう感じ~」



ぶ、物騒…。

思わず不安な顔をしてしまったらしく、カケルくんが私を気遣うように声を上げた。



「無理しないでくださいね、菜子さん。

 僕ら7係は無理に勝ち上がる必要なんてないんです。今関さんの言った通りです」

「そうだね、身体を借りるくらいの気持ちでいこう」



7係からは灯ちゃんとカケルくんと私が出る。

人並みに戦闘ができるのはカケルくんと私だけだし、替えがきかない以上2戦目以降はかなりしんどいと思う。


よし、狙うは初戦敗退で。

と私たちは激しく後ろ向きな決意を固めた。




「とはいっても練習試合だもんね」

「そうですよ!」

「そーそ、適当にやろうz」




ドオオオオオオオオオオオオン!!




突然の爆発音に、私は驚いて競技場の方向を見た。

試合会場のそのど真ん中から土煙が舞い、無数の暗い色の縁が放射線状に勢いよく広がっていく。



「…え、何?」

「あっれ、もう第一試合始まってんじゃね?」

「もうそんな時間でしたっけ?」

「……11時、過ぎてるわ」



縁の1本が私の頬を鋭くかすめて消えていった。


土煙が消えると、試合中だったらしい大柄な男が満身創痍で地面に倒れこむ。



「…私たち、大丈夫、だよね?」



仲間へ振り返って目を合わせた先—―――埜々子さんからは何の感情も読み取れなかった。





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