2人目 行方不明のおばあちゃん
京都宇治南警察署。
京都の中でも比較的大きめな警察署で、落とし物や運転免許証の手続きができるだけでなく、上階は犯罪事件を担当する捜査部隊の拠点となっている。
すべて一般人向けの施設、部隊だけれど、1つだけ特殊治安局と連携する部署がある。
彼らは
その部署に所属するメンバーの1人が、今目の前にいる『内藤さん』だった。
茶色の短い髪と瞳を持つ爽やかな好青年という第一印象の彼は、符術関連に関わるのは初めてだそうで、少し緊張している。
「私は符術の力を持つ家の出身でして、妹と母が符術を使えます。私は力がないので一般人として暮らしていますが、比較的こちらの社会の事情が分かるからと配属されました」
聞けばこの春から今の部署で働いているらしい。
「早速本題となりますが、今回探していただきたいのは一般家庭のおばあちゃんです」
内藤さんはタブレットの向きを変え、私に差し出した。
その画面には皺の深い老年の女性の写真とプロフィールが記載されていた。
『
『1か月前、京都駅の防犯カメラの映像を最後に消息不明』
「この方の行方を視ればいいんですね」
「『視る』?ええっと…そうです、調べていただきたいと思います」
『縁視』のことを知らなかったらしい。
私は口角をあげ、彼の不思議そうな瞳を見て説明をした。
「私は、人や物の『縁』を視る力があります。今回のような行方不明の方を探す場合、その方が使っていた物や写真からその人の『縁』を調べ、行方を視ることができるんです」
「そうでしたか!通りで先輩にいろいろ持たされたんですね!」
納得したように頷いた内藤さんは、足元に置いていた大きなプラスチックケースを重そうに机に置いた。
場所がなかったという理由で取調室で話しているからだと思う。
なんだか身に覚えのない証拠品を出されて事情聴取されている気分…。
内藤さんは袋に入った様々な物品を机に置いて行った。
家族の集合写真、ブラウンの衣服、ちりめん生地の手鏡、その他もろもろはご家族から借りてきたらしい。
「おばあちゃんの行き先について、手がかりはあるのですか?」
「いえ、全く…。ただ、美川さんは認知症でして、1人で出かけることは滅多にないそうです」
「なるほど」
徘徊の末に行方不明。
残念ながらよく聞くことだと思う。
そうすると本人とゆかりのない土地へ行ってしまった可能性が高く、行方を追いきれないということなんだろう。
どうにも見つからなかったから、こうして私が呼ばれたってことか。
「わかりました。では視てみますので少々お待ちください」
「はい、よろしくお願いいたします」
内藤さんも席を外さず一緒にいたいそう。
私はさっきと同じようにカラーパレットを片手に調査を始めようとした。
ふわり。
視界の端に極彩色。
振り返ると、『エニシミエシミ』の蝶々が勝手に飛び回っていた。
まだ呼んでないのに!
「わあ…」
内藤さんは美しさに目を奪われている。
私が声を介して与えた力が残っていて、ずっと消えずに服の中にでも潜んでいたのかも。
「まだ出番じゃないんだけどな…」
まあいいか。
私は調査を再開した。
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