哀れな蹴鞠救出作戦

「え…」



話を聞いた斉郷様は、困惑の表情を浮かべていた。

とりあえず、何か棒状のものを持ってくるようにお願いする。

理由はわからないけど、行方不明の原因はわかった。

あとは無事に救出できればいいのだけれど。


15分後、私は軍服とストッキングと靴を脱ぎ、短パンの状態になった。

この白い軍服はワンピース型だから、池に入るには向いていない。

中に短パンを履いていてよかった。


池は膝くらいの深さだった。

竹馬の片方を持ってきた斉郷様は、先に池をつついている。

足をくすぐる鯉と闘いながら、私は両腕を池の中につっこんだ。



「何も引っかからないわ…」

「そうですね…視た時はこのあたりに沈んだはずですが…あ!」



丸い何かの感触がして、私は深く腕を入れる。

ふにゃふにゃのそれを両手でやさしく掬うようにして、持ち上げてみた。

泥にまみれ、空気の抜けたボールのようなそれに、わずかに見える白い色。

斉郷様はそれを指さして声をあげた。



「そ、それです!」



―――――――――――――



「1週間も水の中に居れば、こうなってしまいますよね…」



手足を洗って着替えた私がリビングに戻ると、斉郷様は困った顔でこちらを見た。

タオルの上には、さきほどよりずっと綺麗になった蹴鞠…だったはずのぺしゃんこな何か。



「直すことはできるのですか?」

「わかりません…職人さんにみてもらわないとも何とも言えないですね。

 直せる方に出会えるまで探すつもりです」



そうですか…と会話が止まる。

見つけたとはいえ無事ではなかったし、これからが大変かもしれない。



「もしあてがなくなってしまいましたら、神具を作る家に相談してみるのはどうでしょうか」

「神具、ですか?」

「はい。お門違いかもしれませんが…古くから生業なりわいとしておりますので、何かわかるかもしれません」



その家に依頼する際はご連絡ください。

私は名刺に携帯の連絡先を書き加えて、斉郷様に渡した。



「ありがとうございます。何とか直す方法を探します。

 見つけていただいてよかったです。どんな形でも返ってきただけでよかった」

「お役に立てたのならよかったです」

「ええ、本当にありがとうございました」



斉郷様は丁寧にお辞儀をした。

私も倣って、早々に屋敷を後にする。


『縁視』は視たままを話すことしかできない。

無事に蹴鞠が新しい姿を取り戻すを願って、私は京都駅へ戻る道を歩き出した。

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