桜色の行く末

数々の持ち物から推測される美川さんの縁は、綺麗な『桜色』だった。

よく見れば手鏡や写真に写る美川さんの服はサクラ模様が散りばめられている。

サクラが好きな人だったんだろう、と安易に想像がついた。



「美川さんの縁の色を確認しました。これから縁の記憶を覗きます」



しばらく集中しますのでそのまま待っていてください、と内藤さんに告げると、はいと緊張した声が返ってきた。

さっきまで遊ぶようにひらひら飛んでいた『エニシミエシミ』を指に止まらせ、声をかける。



「お願いできる?」



すぐに飛び立った蝶々は、また私に鱗粉を振りかける。

ゆっくりと目を瞑って、私は記憶の世界へ飛び立った。



―――――――――――――



セミの鳴く声。


電車のアナウンス。


忙しなく人が行きかう京都駅のホームに私はいた。



きょろきょろ辺りを見回してみると、一番前で電車を待つ美川さんの姿を見つけた。

隣に立って、様子を見てみる。

喜怒哀楽もない表情で、大きめのビニール袋を持って立っていた。


まもなく電車がやってくるアナウンスから数十秒後、

京都駅へ到着した電車に美川さんは乗った。



がたん、ごとん

電車に乗って数十分。

最初に比べかなり人が減り、私は美川さんと少し距離を置いて座っていた。

向かいにはぐっすり寝込んでいる学生が1人。

同じ車両には親子が乗っているけれど、2人とも同じく眠っていた。

遊び疲れたんだろう、なにせもう少しで陽が落ちる時間帯になっていた。


さらにそれから数十分。

美川さんは突然ゆっくりとした動作で駅を降りて行った。

辺りはすっかり暗くなっている。


到着したのは人通りの少ない小さな駅。

美川さんは迷わず歩いていく。

私は不安を抱えながらその後ろをついて行った。



――――――――――――



美川さんは知った道であるかのように、どんどん山の方へ歩いていく。

車しか通らないような山道を、すたすたと歩みを進める。

前に住んでいた家でもあったとか?迷子とは思えない足取りなのがどうしても引っかかる。



『…あら?』



美川さんは突然初めて声を出した。

突然ビニール袋を前に握りしめて、きょろきょろと辺りを見回す。

その視界にもちろん私は映っていない。



『ここ…どこかしら』



やっぱり身に覚えのない場所まで来てしまったみたいだ。

先ほどから車が通る気配も人の気配もない。

怯えだす彼女は、ふらふらと後ろに下がっていった。



『どこ…どこなの…だれか…』

「…!危ない、それ以上下がったら…!!」



わかっていたのに。

私は必死に手を伸ばした。


突然バランスを崩す美川さん。

その後ろには暗い崖の底が待ち構えている。


掴もうとした腕は美川さんの体を貫き、その体は一瞬で深い闇の底へ堕ちていった。



「美川さん…美川さん!!」



ごつ、ごつと何かがぶつかる音が遠ざかっていく。

叫んだ声は届かない。

それでもどうしても私は何かしたくて、崖下を覗き込んでみたけれど


赤黒く、そして消えていく縁を最後に

意識は遠ざかっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る