縁を視る価値

東京に戻って数日。

生八つ橋がすっかりなくなって、残った宇治茶を淹れてはカケルくんと今関さんが美味しそうに飲んでいる姿を視界の端に映しながら、私は携帯端末で電話をしていた。



『—―――というのが、その後の経緯になります』



電話の向こうで内藤さんは、先日の行方不明事件の報告をしてくれていた。

曰く、私が縁を視てからすぐに山での捜索が始まり、つい一昨日に美川さんが見つかったそう。

既にこの世を去っていたものの、遺体は家族の元に返すことができそうだという。


また、美川さんが持っていたビニール袋も無事に発見され、中に入っていた青色のくまのぬいぐるみは、無事にお孫さんへプレゼントされるらしい。



滅多に1人で外出しない美川さんが出かけた理由。

それは、お孫さんへのプレゼントだった。



お盆に帰ってくるお孫さんに、あらかじめ買っておいたピンクのぬいぐるみを渡したところ『青が良かった』と泣かれたという。

その時は買いなおすことを約束し、お孫さんは納得して受け取ってくれたのだけれど、どうやら美川さんはそのことを忘れプレゼントを買いに行ってしまったのではないかというのが家族の見解。


無事に青いくまのぬいぐるみを買えたものの、山道の途中で帰り方がわからなくなったことに気づいて、動揺し…、というのが内藤さんたち警察のその後の見解だった。



「そうでしたか」

『吉川さんがいなければ、解決しませんでした。本当にありがとうございました!』



努めて明るくふるまう内藤さん。

でも、私は同じ声色で話すことはできなかった。



「無事に帰ってくることが一番でした。知りたくなかったこともわかってしまうのが縁視の力。ご家族はこれでよかったのでしょうか…」

『…よかった、というとウソになると思います』

「…そうですか」


『でも、永遠に不明のままより、行方がわかった方がずっと良いのは確かです』



内藤さんは力強い口調で言葉を紡ぐ。



『吉川さんの力がなければ、依子よりこさんの本当のプレゼントをお孫さんに渡すことができませんでした。

 たとえ視た結果が良くないものでも、美川さんの想いを届けることができました。


 吉川さんが切れかけた依子さんと家族の『縁』をつないでくれたんです。


 だから、僕は吉川さんのこと、すごく尊敬します』


「…ありがとうございます。内藤さん」



それなら、よかったと。

さっきより少しだけ明るい声が出た。


京都に来る際は連絡くださいね。ご馳走しますから。

その後、内藤さんと約束をして通話を切った。




「嫌なもの、視ちゃったようね」

「今関さん」



綺麗な緑色をした宇治茶がことりと置かれる。

今関さんはただ微笑んで私を見ていた。



「…でも、視てよかったです」

「そう」



たとえどんな結果でも、誰かを救うことができたなら。

自分の心をそっと隠して、私はお茶に手を付けた。



「うん、やっぱり宇治茶は美味しい!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る