はりぼて少年と有栖科家へ

「な、菜子さあ~~~ん!」

「あらら…どうしたの」



建物を出た瞬間、カケルくんは私の服を引っ張り、大きな瞳を潤ませて見上げてきた。

その顔、最初はかわいいで脳内がいっぱいだったけど、3年経ってようやく慣れた。



「かっこよくできてましたか!?僕!」

「うん、キリっとしてて良かったよ」



ほんとですか!と打って変わって満面の笑みを浮かべるこちらの姿が、本来のカケルくんだったりする。

こっちの方がずっとかわいいのになあ、と私は毎度思いながら彼の頭を撫でた。



「よ、よかった…」



素直に撫でられながらほっとするカケルくん。

どうやら今関さんに初恋を持っていかれ、強い憧れを感じたらしく、彼女の前だけはあんな態度をとるようになった。

男の子らしく、頼もしいかっこいい男性でいたいらしい。

ああ…かわいい…純粋…。


おっと。



「よーし、今日も今関さんに褒められるように、頑張ろうね」

「はいっ!」



カケルくんはまたしても良い笑顔で頷いてくれた。



――――――――――――



有栖科家。

代々符術を用いて神具を作っている由緒正しいお家柄だ。


符術や特殊能力者を抱える『家』は、主にいろいろな能力者を養子にとることで勢力を強め、影響力を持つことで生き残る。

その中でも希少な、代々受け継がれてきた秘術を守り、次の世代へ伝えていくことで生き残ってきたのがこの有栖科家。


作られる神具は地元のお祭りから王族の伝統行事まで使われており、家としての影響力は少ないものの有名な家の1つ。


そんな重要な集団の事件をわざわざ7係に持ち込むなんて、相当面倒なんだろうなあ。


私は電車に揺られながら、のんびりそんなことを考えていた。



――――――――――――



現地に到着して、早々に私たちは油断していた数十分前の自分を叱りたい衝動にかられた。


庭の土は大きく掘り返され、茶色い塊がオブジェのように鎮座。

屋根の瓦は派手に剥がれ、屋根から落下し粉々に割れている。

綺麗に貼られていただろう障子は穴だらけ、障子自体も折れて倒れているもの、なぜか庭の池に浮いているものもある。

その池も明らかに水が減っており、追い出されただろう水分は周りの土を泥に変えていた。

そんな状態の庭や部屋には、うろうろと困ったように彷徨う人々の姿。


美しいはずの大きな日本家屋は、実に悲惨な状況になっていた。




「土の術に水の術、属性の異なる術を使えるとはすごいですね」



その考えに同意はするけど、目の前の「めんどくさい臭」を遠ざけようとするのはよろしくないと思うよ。

…気持ちはわかるけど。



「ああ、あなたがたが特殊治安局の」



その声に振り返ると、壮年の着物の男性がほっとした顔で近づいてきた。

今関さんからもらったデータにあったな、この方は現当主の有栖科 信人様だったっけ。



「お待たせいたしました。支援一課 7係の吉川と申します」

「瀧澤と申します」



私の声に続いてカケルくんが挨拶をすると有栖科さんは丁寧にお辞儀をして名乗った。

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