癇癪お嬢様の怒り
有栖科家当主、信人様と奥様、長男の湊様に比較的無事な部屋へ通された私たちは、事の詳細を確認していた。
「お嬢様、
「ああ、3日後に行われるお祭りで奉納するカガミ作りを任せていたのだが…」
事件が起きたのは2日前。
若干8歳ながら美しいカガミを作る末娘 呱々菜様は今年からカガミの奉納を任されることになった。
10日間をかけて行われるカガミ作りは順調に進み、呱々菜様もご機嫌でいたけれど…。
ガシャン!
突然投げられた小石が、縁側に置いてあったカガミに見事命中。
修復不可能なほど真っ二つに割れてしまったという。
敷地の外から小石を投げたのは、呱々菜様と同じクラスの男の子だった。
『やーい呱々菜のひっきこっもりー!そんな気持ち悪いモン作んじゃねーよ!バーーカ!!』
『………で』
『なんだよ呱々菜ー』
『なんで、なんでなんでこんなことするのよ!!
わあーーーーーん!!!!』
『うわあああああ!!』
癇癪持ちの呱々菜様は大激怒。
ありとあらゆる符術を暴走させ、小石を投げた男の子は間一髪逃げられたものの
家はボロボロ、家族の説得も聞かず一晩暴れまわったという。
その後、部屋に籠城を決め何を話しかけても返ってこなくなってしまい、今に至る。
「あの子の悔しい気持ちはわかります。唯一湊よりうまく作れるカガミがあの子の自信だったのです。初めて任された職人としての依頼をこんな形で失敗してしまうなんて、ショックに決まっています」
有栖科家の奥様は悲しそうに話す。
同じように悲しい顔をする兄の湊様は、膝に置いた手を震えるほどぎゅっと握りしめていた。
「カガミは数年に一度取り換える。今年の祭りは2年前に私が作ったものを再利用することになったが…呱々菜をこのまま引きこもった状態で祭りを迎えるわけにはいかない」
信人様は深い顔のしわを一層深くし、射貫かんばかりの強い視線で私たちを視る。
その職人独特の圧に、カケルくんは隣ですこし小さくなっていた。
「呱々菜には来年もカガミを奉納させるつもりだ。だからこそこの失敗を乗り越えるため、祭りには参加しなければならない」
愛情と共に一弟子に対する想いを垣間見た私たちは、解決に向けまずは調査から始めることにした。
――――――――――
まずは、籠城の現場―――呱々菜様の自室前に私たちは行った。
信人様と奥様は祭りの準備に戻り、湊様は妹をどうにか元気になってほしくて、できることをしたいと私たちについてきた。
使用人の女性と共に4人で呱々菜様に声をかけてみる。
「呱々菜様。支援一課 7係の吉川と申します。よろしければお話いたしませんか?」
先ほどの話の通り、返答はない。
カケルくんも話しかけてみたが、様子は変わらなかった。
「呱々菜、おなかすいてない?何か食べようよ」
湊様が声をかけると、わずかに縁が揺れるのを視た。
今兄弟を結ぶのは、深い青色だ。
ぎくしゃくした関係、気まずい雰囲気のときによく出てくる色。
「ぐす…」
「!」
部屋の中からわずかに声が聞こえた。
すすり泣く声…泣いているみたい。
これ以上ここから声をかけるのは難しそうだ。
カケルくんを見ると、眉をㇵの字にして頷いた。
「呱々菜様、また来ますね。今度は何か食べ物を持ってきますから」
私たちは何もできず、4人で部屋を離れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます