お嬢様の機嫌を戻すには

庭に戻ると、鎮座していた土の塊が少し削れていた。

使用人や近所の人たちが手分けして元の姿に戻すべく慌ただしく動き回っている。

符術を使っていないようだけど…このまま人力で作業するのかな。



「符術を使わないんですね」



カケルくんが同じことを思ったらしく、口に出す。

湊様の隣にいた使用人がええ、と返答した。



「私たちを含め、彼らは符術の使えない一般人でございます。

 有栖科家は、違い昔より一般の方々と共に生きてきた珍しいお家でございまして、

 『良い神具は良い仲間との絆から生まれる』という教えの元、一般の子供たちと同じ学校に通い、技術を磨いておられるのです」

「それは確かに珍しいですね」



現代社会は符術や特殊能力者と、そうでない大多数の一般人には乗り越えられない壁がある。

完全に隔離され、一般の人々は私たちの存在を知らないほど。

その隔たりを越え代々技術を継承してきたというのは、本当にすごいことだ。



―――――――――


やがて片付けをする人々に邪魔にならない縁側に腰を落ち着けた私たちは、お茶を飲みながら作戦会議を始めた。



「まずは、どうやって部屋から呱々菜様を出すか、ですね」

「湊様、今までどんなことを試されたのですか?」



私よりも湊様と年の近いカケルくんが、丁寧な敬語で質問をする。

『家』の有り無しで起きるこの不思議な状態はどうしても慣れないな。



「お菓子あげるとか、お話してみたけど…だめだった」

「なるほど…先ほどの様子からするに、言葉はあまり効かないかもしれませんね」



私の言葉に、内気な少年は何も言わず頷いた。

カケルくんはあたまをぐしゃぐしゃして唸る。



「小さな女の子の心を知るのは難しいです…菜子さん、何かアイデアはありませんか?」

「私はだいぶ前に小さな女の子を卒業してるからなあ…」



それからうんうんと唸りつつ、お茶を楽しみつつ、考えること1時間。

結局何も浮かぶこともなく、陽は無情にも1日の終わりが近いと告げた。



―――――――――



暗くなり、部屋の灯が見え出したころ。

何にも浮かばない私たちはとりあえず歩きまわっていた。


そろそろ家の周りを一周するかというとき、ひときわ大きな声が上がっている小屋が目に入る。

離れにしては小さめだが、煌々と明かりが灯り、片付けしている人たちとは別の雰囲気をもつ男性たちが出入りしている。


湊様はその小屋に気づいたようで、あ!と元気な声をあげる。

その目はきらきらと輝いていた。



「ああ、あそこは御神輿を作っているのですよ」



使用人の女性はくすくす笑いながら教えてくれる。


「湊様は神具以外にも御神輿づくりに興味があるようで、よく職人の方々と一緒にいるのです」

「へえ、そうなんですか、湊様」



半日一緒にいて少し打ち解けた彼の顔を除くと、嬉しそうにうんと頷いてくれた。

それなら少し顔を出そうか。

そんな軽い気持ちで私たちの足は活気あふれる空間へ向かった。




「ぎゃははは!今年もいい神輿に仕上がりそうだなァ!」

「そうだなァ!」

「じゃ、」

「「「カンパーーーイ!!」」」


そこは既にお祭りが始まっているかのような宴会場になっていた。


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