御神輿と宴会と輝くひとみ
「おー!湊坊ちゃんじゃねーかァ!」
狭い部屋に転がる酒瓶。
後ろには大きな御神輿が鎮座しており、その前で屈強な男たちが顔を赤くして酒盛りをしていた。
転がっている瓶を見ると、さっき始めたわけではなさそうだ。
そんな空間に遠慮なく走り寄り、その勢いで一番屈強な男に抱きつくのは湊様だ。
私たちは圧倒されて固まっていたけれど、使用人の女性の笑い声に呼び戻され、彼らに挨拶をして呱々菜様の件で調査していることを伝えた。
「あーあーそうだったなァ、呱々菜嬢ちゃんがいつもの癇癪を起こしたって聞いたぜ」
スキンヘッドの男が一升瓶から流れる最後の一滴を口に垂らしながら言う。
信人様方とはうって変わって彼らの楽観的なところを見ると、呱々菜様の行動は程度が違うだけでいつものことなんだと思われる。
「今回は同じクラスのガキがやらかしたんだろ?」
「あいつ悪ガキだからなァ、昨日母親に連れられて謝りに来てたぜ」
「あれだけ怒られたってのに、今日は仲間といたずらして遊んでるの見たぞ」
「懲りねえなァ」
「「「はっははははははっは!!!」」」
「さ、酒臭い…」
お酒の匂いに弱いカケルくんは辛そうだ。
「あんたも一杯どうだ??」
「ぜひいただきたいんですが、仕事中なので怒られちゃいます」
「公務員ってのは大変だねェ」
じゃ、代わりに、と。
どこから出てきたのか冷たいウーロン茶を渡された私たちは、そのまま宴会にお邪魔することにした。
―――――――――――
「正直、呱々菜様をどうすればいいのかわからないんですよねー」
「そりゃあ信人さんも佳代さんも毎回苦戦してんだァ、新参のあんたじゃ難しいだろなァ」
少しして、私は彼らのノリに合わせながら何かヒントがないかを探る。
男たちは昔から信人様一家と関わっていたようで、たくさんの話をしてくれた。
湊様はその1人の膝に乗って楽しそうにお菓子を食べている。
こんな時間に食べるなんて…と使用人の女性は渋い顔だ。
「にしてもよお、あんな癇癪持ちは誰に似たんだァ?」
「
「がはははは!!」
「信人さんも厳しいけど怒りっぽくねーしなァ!」
「…そういえば」
しばらく息をひそめていたカケルくんが、ふと疑問を口にした。
「呱々菜様ってよく癇癪起してたんですよね?いつもどうやって機嫌直してたんですか?」
「そりゃあ我慢比べさ!」
「我慢比べ?」
「腹が減ってどうしようもなくなりゃあ部屋から出てくるからなあ、それで腹いっぱい食いまくったらいつのまにか機嫌が直ってるんだよ」
うーん、それだとお祭りまでに出てくる保証はないな…。
もう少し良い方法はないのかな。
「誰だって腹がいっぱいになれば、嫌なこたァ忘れるくらい幸せになんだろ、呱々菜ちゃんはよく食べるからなァ」
「あの食いっぷりはすげえよなァ!特に宴会の時なんか楽しくなってバクバク食ってよォ!」
「腹壊して病院行ったことあったろ」
「「「がはははははは!!」」」
「お腹が減る…かあ」
もし、呱々菜様を早く『お腹が減ってどうしようもない』状態にすることができれば…。
楽しそうな顔で頭を撫でられる湊様を見て、私はアイデアを思いつきそうになっていた。
思案していると、不意に使用人の女性がぽつりとつぶやく。
「有栖科家の方々は代々、騒ぐことが大好きですからねえ…」
「それだ…それだ!!」
「うお!?」
「わ!?菜子さん!?」
驚く周りを尻目に、私の脳内はひらめきに満ち溢れていた。
―――――――――――――――
その日の夜中。
どうせ徹夜コースを闊歩しているだろう上司のもとへ急いで戻った私は、勢いよく執務室の扉を開けた。
「今関さん!いますか!!」
「うわっっ!?」
うたたねしていたのだろうか、メガネをずらしたまま目を見開いている今関係長に私は限界まで迫る。
「ち、近い…ちょっと、化粧崩れてるから、あんま見ないで…」
「今関係長!!」
「聞こえてるから!あなた声はよく通るんだからもうちょっと小さくして…」
「経費、使わせてください!!」
「……はい?」
元の位置に戻したメガネが、再度ずれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます