縁が映す鞠の足跡

ふわり、ふわり。

たくさんの色とりどりの糸が視界いっぱいに現れる。

古いものであればあるほど、繋がっている縁は多い。

品々からは数えきれないほどの縁が伸び、壁や床、品物同士を結び付けていた。


これらの共通の縁の『色』はなんだろう。

すべて蹴鞠に関連した品々だから、蹴鞠本体とも『同じ色』で繋がっているはず。


私は本数の多い縁の色を、カラーパレットアプリを使って記録を進めていった。



――――――――


うーん、これはオレンジだけど3本しかない。

この明るい黄色は…うわ、目が痛い、蛍光の黄色だ、これも違う。


視界の端には斉郷さんが興味深そうにこちらを見ている。

この色は…うん、斉郷さんにはないからこれでもなさそうだなあ。


5、6種類の色を記録して、私は一度縁視の力を解いた。



「…視終わったのですか?」

「はい、とりあえずいくつか候補は出ました」

「そうでしたか。…よければ飲み物をどうぞ」

「お気遣いありがとうございます」



京都はやっぱり宇治茶が美味しい。

集中して力を入れていた全身がリラックスしていくのを感じる。


10分ほどして和室に戻った私は、本格的な『失せもの探し』の作業に入った。


いくつかの縁が絞れたら、次はその縁に残された『記憶』を覗く。

蹴鞠とつながる縁であれば、そのモノの直近の記憶を探ることができる。


通常『縁視』を持つ人でも符術が使えるので、映像化するなり探る方法はたくさんある。

しかし、符術の使えない私は、別の方法で探るしか方法はなかった。



言霊ことだま

符に力を込められない人々は、自身の『言葉』で術を使う。

『符』に及ばないけれど、今回は十分。


私は大きく息を吸い、口を開いた。



 エニシミ エシミ 縁の瞳

 喜びを映せ 悲しみを映せ

 視えるは想いと慈しみ

 未来を映せ 過去を打ち守れ



歌声に誘われるように、1匹の大きな蝶々が現れた。

白く輝く羽をぱたぱたと動かしながら、私の周りをゆっくりと回る。

羽は極彩色が散りばめられ、光り輝く鱗粉を辺りに降り注ぐ。

その優雅な姿は、蝶々の周りだけ時がゆったりと流れていくような感覚にさせた。


この子は『付喪神』

古くから縁視の人々が歌い継いできた『エニシミエシミ』に宿る付喪神だ。


自力で符術を使えない私は、彼らを呼び出すことで術を使う。



「久しぶりだね」



指を差し出すと、音もなく羽をたたんでちょんと止まる。

あいさつ代わりに触角がつんつんと手の甲を触った。

くすぐったい。



「いくつか縁の記憶を見たいの、協力してくれるかな」



下を向いていた触角が上がる。

いいよ、とでもいうように再び飛び立った蝶々は、私にたくさんの鱗粉を振りかけた。


遠くなる意識。

私はゆっくりと目をつむった。

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