隠した爪を、少しだけ
それから悠馬くん、瀬くん、私の3人は、この部屋から脱出するべく部屋の調査を始めた。
物はたくさん置いてあるが、どれも埃が被っていたりボロボロになっていたりで使えそうにない。
私は唯一の出入り口になっている鉄の扉を眺めていた。
「ここまで古そうだと、ちょっと頑張れば扉を壊せそうじゃない?」
「難しいと思うぜ」
「悠馬くんの符術でも?」
「…まあな」
悔しがりそうなのに、悠馬くんはやけに冷淡だった。
いまいちわかってないことが伝わったのか、悠馬くんは口を開いた。
「…ちょっと見とけ」
そういうと扉の前に立ち、手を伸ばす。
扉に触れるか触れないかまで近づいたその瞬間。
バチィッ!
「っ!」
紫色の火花みたいな光が悠馬くんの手をはじいた。
舌打ちして引っ込めた手を見ると、少し赤くなっていた。
瀬くんが驚いてこちらを見て声を出す。
「大丈夫ですか!?」
「全然ヘーキだ、このくらい」
「もしかして、結界?」
「そーいうことだよ。しかもこの結界は『捕縛』用だ」
通常『結界』と呼ばれる術は、外部から身を守るための術だ。
前の武闘大会で私は言霊で似た種類の『障壁』を使ったけれど、通常そういう類いのものは、例に漏れず『符』を使って行われる。
符っぽい紙はどこにも貼られてないけど、結界が張られてたのか…。
しかも、『捕縛用』?
「通常、結界は相手の攻撃や術から身を守ったり跳ね返したりするだろ?
『捕縛用結界』ってのは、その能力を『内側』にしたやつだ」
「あ!この前悠馬さんが教えてもらった術ですか?」
「おう、こいつに説明してやれよ」
わかりました!と元気な声を上げて、瀬くんは私の方を向いて教えてくれた。
「結界の中にいる人の攻撃や術をはじき返す術なんです。
内側から破壊されないようにできるので、捕まえたり、閉じ込めるたりするのに使えるんです」
「そうなんだ…それがこの部屋に?」
「おそらく扉の外側に符が貼られているんだと思います」
なるほど、つまり内部にいる私たちには結界を壊すことが難しいのか。
だから悠馬くんの力でも脱出できないってことか。
「ということは、誰かが外から解いてくれないと出られないってこと?」
「そーいうことになるな。チッ、めんどくせえ」
「確かライトスには僕ら3人しかいませんでしたし…転送されてきてしまったので見つけてもらうにも時間がかかりそうですね…」
沈黙が流れる。
私はまだ痛い頭を抱えた。
7係のみんなは無事だろうか。
おそらく問題ないだろうけど、これを聞いて心配してくれるのは容易に想像ができるし、灯ちゃんなんて怒りに任せて暴走してしまうかもしれない。
『雷鳴』と『特殊治安局』は仲が悪い。
抗争の火種になったら大変だ。
困ったな…。
―――――――――――――――
「とりあえず部屋中を見てみたけど…」
それから1時間近く経って、部屋に3つのため息が響き渡った。
「何もないね…」
「何もねーな…」
「そうですね…」
現状を改めて自覚して、どうしようもない事実を受け入れざるをえなくなってしまった。
「そういえば、悠馬くん、瀬くん。
実際ここに来るまで記憶が合ってるか確認してもいい?」
「全部思い出したんじゃねえの?」
「いや、思い出したんだけど…ところどころ途切れているんだよね…相手の姿も覚えてないし」
私の声に瀬くんがわかりました、と丁寧に応じてくれた。
「僕らはお昼くらいにライトスで会っていました。久々だったので最近の出来事の話が中心でしたね」
「そうだね、覚えてる」
「でも、突然扉が蹴破られて…」
言葉につまった瀬くんに、私は覚えていることを話してみた。
「私は抜刀したけど間に合わなくて、頭に一撃、と」
「かなり吹っ飛んでいったな、お前」
「そんなに?」
「2~3メートルくらい先に気絶して倒れてたぜ」
時折痛む頭を触ると、わかりやすくたんこぶになっていた。
痛みますか?という瀬くんに大丈夫と返して、私は話を続ける。
「その後は3人まとめて転送されたということ?」
「正しくは1人ずつだったな。あんたと瀬はほぼ同時、俺は瀬に気を取られてるうちに後ろからやられた」
「相手は複数人か…」
「…クソっ!」
ダン、と部屋に悠馬くんの拳を叩きつける音が響いた。
「あいつら…真っ先に吉川を…雷鳴の部外者を狙いやがった…!」
「…それは、」
「おかしいですよ!吉川さんは僕らと関係ない上に、一番痛めつけられてるじゃないですか!?
本来の狙いは僕らのはずなのに…」
「気にすることはないよ。そういうものなんでしょう」
「そういうもの、ですか?」
瀬くんはハテナを浮かべて私を見る。
あまり自分で言うことでもないけれど、後々の彼のためになるなら言ってもいいか。
視界の端に映る悠馬くんは察したのか微妙な表情をした。
「私は『縁視』だからね、いつ
「え…」
「この先短い老人よりも未来のある若者の命が優先、なんてね」
「そんな…じゃあ僕らは…」
「明人!」
視線が下に落ちていく瀬くん。
そんな姿に悠馬くんは肩をがっしりと掴み、目線を自分に向けさせた。
「気にすんじゃねぇ!俺達『雷鳴』はお前をそう思っちゃいねえよ!
リーダーも沖永さんも全員そうだ。誓ってそうだからな!!」
「…悠馬さん…」
「テメェも変なこと言うんじゃねえよ!」
「ごめんごめん」
怒られてしまった。
「瀬くん、ということだから気にしないでね」
「はい…」
妙な空気になってしまった。
私は立ち上がってもう一度見回す。
何にも手立てがないなあ、と無意識に腰に手を当てたときだった。
「…あれ?」
「あ?どーした」
「私の刀は?」
腰に隠して貼っている符がない。
刀を顕現させたからだろうけど―――――じゃあ、抜刀した刀はどこに?
「そりゃあるわけねーだろ」
「え?」
「吹っ飛ばされた時に、一緒に飛んでっただろ」
「飛んでった?」
気を失う前に手放してしまったのは覚えているけど、今刀はどこにいるんだろう。
「もしかして、まだライトスにいる?」
「さあな」
ぐるぐると思考が勢いよく回っていく。
私は閉じ込められているけれど、『刀』は『外』にいる。
もしかしたら、
「…1つ、試したいことがあるの」
「試したいこと?」
悠馬くんが胡坐をかいたまま首をかしげてこちらを見た。
じゃら、と彼のネックレスの音が鳴る。
「『縁』の力なら、結界は関係ないでしょう?」
「…まあ、そうだろうな」
「それなら1つ試そう」
何する気だよ?
悠馬くんと瀬くんを見降ろして、私はこぶしを握って言った。
「私の『刀』—―――――『付喪神』に力を借りるのよ」
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